・・・的も自分で張ったのを持って来て、掛け替えに行った。「こりゃ驚いた。尺二ですぜ。しっかり御頼申しますぜ」と大尉は新規な的の方を見て矢を番った。「ポツン」と体操の教師は混返すように。「そうはいかない」 大尉は弓返りの音をさせて、・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・観客は亮の兄弟と自分らを合わせて四五人ぐらいはあったが、映画技師、説明者が同時に映画製造者を兼ねるのみならず、肝心のガラス板がやっと二枚ぐらいしか掛け替えがないのだから亮の骨折りは一通りでなかったろうと思われる。後には自分の父に頼んでもう少・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・いったい自分は両親にとっては掛け替えのない独り子で、我儘にばかり育ったが、病気となると一層の我儘で手が付けられなかったそうである。薬でもなかなか大人しくのまぬ。これを飲んだらあれを買ってやるからと云ったような事で、枕元には玩具や絵本が堆くな・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・あるいは掛替えられたのであろうか。ここに水門が築かれて、放水路の水は、短い堀割によって隅田川に通じている。 わたくしはこの堀割が綾瀬川の名残りではないかと思っている。堀切橋の東岸には菖蒲園の広告が立っているからである。下流には近く四木の・・・ 永井荷風 「放水路」
出典:青空文庫