・・・なくなれば、しゃっぽで、袴で、はた、洋服で、小浜屋の店さして、揚幕ほどではあるまい、かみ手から、ぬっと来る。 鴾の細君の弱ったのは、爺さんが、おしきせ何本かで、へべったあと、だるいだるい、うつむけに畳に伸びた蹠を踏ませられる。……ぴ・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ と揚幕へ宙を飛んだ――さらりと落す、幕の隙に、古畳と破障子が顕われて、消えた。……思え、講釈だと、水戸黄門が竜神の白頭、床几にかかり、奸賊紋太夫を抜打に切って棄てる場所に……伏屋の建具の見えたのは、どうやら寂びた貸席か、出来合の倶楽部・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ やがて囃が始り、短い序詞がすむと、地方から一声高く「都おどりは」と云った。「よういやさ」 揚げ幕の後で一種異様にちりぢりばらばらのような刺戟的な大勢の掛声がそれに応える。同時に、左右の花道から、鼓、太鼓、笛、鉦にのって一隊ずつ・・・ 宮本百合子 「高台寺」
出典:青空文庫