・・・私が最近に経た鍛錬は、一人の私のような生き方をしてきた作家には、十分の価値をもって摂取されるものですし、ずいぶん無駄なく勉強もしたし、着々と作品の計画もたてはじめて居ります。私はやっぱり生活を愛し、たくさん笑い、心の底に音楽を感じながら、例・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・前半におけるモスクワと伸子との相互関係は、伸子がまだそこにある社会生活を総括して政治的なその根元からつかめず、次々に接触する事物からの感銘や批判を摂取して目に見えず内面変革にすすんでゆく、その段階においてとらえられているのである。拙劣に扱わ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ 全集の普及は、わたしたちすべての人民が、歴史における運命を一歩前進させるための足がかりとして小林多喜二の生涯と文学とを、あらゆる角度から多面的に摂取するための何よりの機会である。〔一九四九年二月〕・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・つづけてまた別のを、と、今日の本の読まれかたの多量さのうちには、何ごとかが判ったから先へ進むという摂取の豊饒さではなくて、どうも分らないからまたほかのを読んで見るという心理にうながされた気ぜわしさ、乱読も相当の割合を占めて来ているのである。・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・近代工業のおどろくべき進歩は、二十世紀に西洋音楽に深く影響して、オネガやストラヴィンスキーその他の音楽家たちが不協和音を摂取するようになったし、文学でも即物的な要素を加えられた。 そのような工場生活者の精神と肉体との組立てに対して、全く・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・同じ頃古典の摂取ということが文壇でやかましく言われ、バルザック、スタンダール、ドストイェフスキー等が読み直され始めた。だがこの古典の摂取も作家の豊富さを増すためにはあまり役に立たなかった。それには理由があった。これらの作家達は既に文芸復興の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・作方法の弱点を理論的に客観的に究明する時間的ゆとり、人的条件を刻々失いつつある一方、各プロレタリア作家の日常的自由は激しく脅かされはじめていたので、新たな社会主義的リアリズムの提案は、それが他の国々で摂取され展開されたような過去の健全な進展・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・階級の対立がのこされている国では、社会主義的リアリズムという創作方法の問題は、ひとくちそれといっただけでは正当に摂取されない。ソヴェトが一九一七年から十二年の星霜を経て、その深刻な根本的改変と建設との成果に立って、社会主義生産の段階に到達し・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ しかし、作者としては、あくまでも初め自分がその作品によっていおうとしたことをどこまで云い遂せているかというところを動かぬかなめとして、賞讚も忠言をも摂取して行かなければなるまい。 私はこの夏、『中央公論』で森山啓氏の「プロレタ・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・ 以上のごとく見れば、応仁以後の無秩序な社会情勢のなかにあっても、ヨーロッパ文化に接してそれを摂取し得るような思想的情況は、十分に成立していたということができるのであろう。だから半世紀の間にキリシタンの宣教師たちのやった仕事は、実際・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫