・・・ちなみに、書房の名の砂子屋は、彼の出生の地、播州「砂子村」に由来しているようであります。出生の地を、その家の屋号にするというのは、之は、なかなかの野心の証拠なのであります。郷土の名を、わが空拳にて日本全国にひろめ、その郷土の名誉を一身に荷わ・・・ 太宰治 「砂子屋」
・・・ 私たちはちょっとのことで、気分のまるで変わった電車のなかに並んで腰かけた。播州人らしい乗客の顔を、私は眺めまわしていた。でも言葉は大阪と少しも変わりはなかった。山がだんだんなだらかになって、退屈そうな野や町が、私たちの目に懈く映った。・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・「播州平野」と「風知草」とは、作者が戦争によって強いられていた五年間の沈黙ののちにかかれ、発表された。主題とすれば、一九三二年以来、作者にとってもっとも書きたくて、書くことの出来ずにいた主題であった。この二つの作品は、日本のすべての人々・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)」
・・・「風知草」「播州平野」「二つの庭」「道標」それにつづいて執筆されつつある一九四五年以後の作品は、その作者が、自身の必然に立って民主的文学の課題にこたえようと試みているものである。「風知草」は「播州平野」とともに一九四七年度毎日文化賞をう・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・「播州平野」をかいた方法で、この複雑でごたついた重荷は運べない。もうひと戻りしよう。「伸子」よりつい一歩先のところから出発しよう。そして、みっともなくても仕方がないから、一歩一歩の発展をふみしめて、「道標」へ進み、快適なテムポであっさりと読・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・にしろ、「播州平野」「風知草」ことごとく、その種のモティーヴに立ち、作品の本質も戦争による人民生活の破壊、治安維持法が行って来た非人間的な抑圧への抗議であった。それぞれの角度から日本の民主革命に結びついた。「五勺の酒」はこれらの作品のなかで・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・「伸子」の或る部分に。「播州平野」の或る部分に。それぞれ、日本の歴史の波が、この農村の生活そのものをも変化させているその姿において。―― わたしは、いつか、この「貧しき人々の群」の発展したものとして農村の小説が書いてみたい。しんから、ず・・・ 宮本百合子 「作者の言葉(『貧しき人々の群』)」
・・・「播州平野」にみちみちている戦争への抗議は人々の生活の底にうずいていないものだろうか。この一月に自分の手から一票一票と三百万の票を党におくった人々の心に「風知草」が描いた代々木本部創立当時のおもかげは、何のよびかけももたないだろうか。「二つ・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
・・・毎日新聞の出版文化賞に「播州平野」と「風知草」とが当選したことは、その作家一人の問題ではなくて、民論が一方で坂口安吾氏の文学を繁昌させながらも他の一方ではやはり真面目に今日の社会の矛盾について考えており、その解決をもとめており、人民を幸福に・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・「新人号」二冊と同じ歴史的意義しかないものだろうか。「泡沫の記録」「妻よねむれ」「播州平野」その他は、民主的文学以外のどこに、生れ得る作品だろう。文学作品がそういう風に、同時代に生きているものとして生きかたをしめし、考えかたをしめし、現実を・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
出典:青空文庫