・・・もし木戸松菊がいたらば――明治の初年木戸は陛下の御前、三条、岩倉以下卿相列座の中で、面を正して陛下に向い、今後の日本は従来の日本と同じからず、すでに外国には君王を廃して共和政治を布きたる国も候、よくよく御注意遊ばさるべくと凜然として言上し、・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・わたくしは政治もしくは商工業に従事する人の趣味については暫く擱いて言わぬであろう。画家文士の如き芸術に従事する人たちが明治の末頃から、祖国の花鳥草木に対して著しく無関心になって来たことを、むしろ不思議となしている。文士が雅号を用いることを好・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・一国の歴史は人間の歴史で、人間の歴史はあらゆる能力の活動を含んでいるのだから政治に軍事に宗教に経済に各方面にわたって一望したらどういう頼母しい回顧が出来ないとも限るまいが、とくに余に密接の関係ある部門、即ち文学だけでいうと、殆んど過去から得・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
・・・左れば今婦人をして婦人に至当なる権利を主張せしめ、以て男女対等の秩序を成すは、旧幕府の門閥制度を廃して立憲政体の明治政府を作りたるが如し。政治に於て此大事を断行しながら人事には断行す可らざるか、我輩は其理由を見るに苦しむものなり。況して其人・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ただ時代時代の風俗政治等々しからざるがために材料または題目の上には多少の差異なきにあらず。例えば万葉時代には実地より出でたる恋歌の著しく多きに引きかえ『曙覧集』には恋歌は全くなくして、親を懐い子を悼み時を歎くの歌などがかえって多きがごとし。・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・「そこで、その、世界文明のシンポハッタツ、カイリョウカイゼンがテイタイすると、政治はもちろんケイザイ、ノウギョウ、ジツギョウ、コウギョウ、キョウイク、ビジュツそれからチョウコク、カイガ、それからブンガク、シバイ、ええと、エンゲキ、ゲイジ・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・ 民主戦線の結成ということは、政治めいた言葉と響いているが、私たちは、自分たちの一生が又とくり返しようもない、いとおしいものであることを犇々と感じている。それがどんなに傷つき不具となっていようとも其故にこそ、ひとしお懐しい生れ故郷である・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・文芸欄に、縦令個人の署名はしてあっても、何のことわりがきもなしに載せてある説は、政治上の社説と同じようなもので、社の芸術観が出ているものと見て好かろう。そこで木村の書くものにも情調がない、木村の選択に与っている雑誌の作品にも情調がないと云う・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・今や明日の文学は、その終局の統率的使命を以て、健康に剛健に、朗々として政治を併呑しなければならない。黙示の頁を剥奪すべき勇敢なる人々は、大いなる突喊の声を持たねばならぬ。 横光利一 「黙示のページ」
・・・ この兼良が晩年に将軍義尚のために書いた『文明一統記』や『樵談治要』などは、相当に広く流布して、一般に武士の間で読まれたもののように思われるが、その内容は北畠親房などと同じような正直・慈悲の政治理想を説いたものである。この思想は正義と仁・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫