・・・このような文学こそ、新しい近代小説への道に努力せんとしている僕らのジェネレーションを刺戟するもので、よしんば僕らがもっている日本的な文学教養は志賀さんや秋声の文学の方をサルトルよりも気品高しとするにせよ、僕はやはりサルトルをみなさんにすすめ・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・その青春時代学芸と教養とに発足する時期において、倫理的要求が旺盛であるか否かということはその人の一生の人格の質と品等とを決定する重大な契機である。倫理的なるものに反抗し、否定するアンチモラールはまだいい。それはなお倫理的関心の領域にいるから・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 天地の大道に則した善き人間となりたいという願い、『教養と倫理学』――の中に私が書いたような青春のなくてならぬもひとつの要請と、やむにやまれぬこの恋のあくがれとを一つに燃えさしめよ。 善によって女性の美を求め、女性の美によって善を豊・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・何をおいても、人間性の霊的・美的教養の書物は逸することを恐れて、より高く、より美しきものをと求めて読んでおかなければならないのである。 学術的、社会・経済的ないし職業専門的の書物にあっても、つとめて勤勉して読むことは、非常に必要である。・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・心境未だし、デッサン不正確なり、甘し、ひとり合点なり、文章粗雑、きめ荒し、生活無し、不潔なり、不遜なり、教養なし、思想不鮮明なり、俗の野心つよし、にせものなり、誇張多し、精神軽佻浮薄なり、自己陶酔に過ぎず、衒気、おっちょこちょい、気障なり、・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・しかも、その奥さんたるや、若くて、高貴で、教養のゆたからしい絶世の美人。 さすがの青木さんも、泣きべそ以外、てが無かった。「女房の髪をね、一つ、いじってやって下さい。」と田島は調子に乗り、完全にとどめを刺そうとする。「銀座にも、どこ・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ のちに到り、所謂青年将校と組んで、イヤな、無教養の、不吉な、変態革命を兇暴に遂行した人の中に、あのひとも混っていたような気がしてならぬ。 同志たちは次々と投獄せられた。ほとんど全部、投獄せられた。 中国を相手の戦争は継続してい・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・ カール・ヒルティ先生の曰く、諸君は教養ある学生であるから、酒を飲んでも乱に陥らない。故に無害である。否、時には健康上有益である。しかし、諸君を真似て飲む中学生、又は労働者たちは自らを制することが出来ぬため、酒に溺れ、その為に身を亡す危険が・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・それにはイデオロギーの教養に無関係に世界の人間の心を捕えるものがなければならない。そうしてそれはロシア人にもフランス人にも日本人にも共通に通用するものでなければならない。そうだとすれば、それはまた必ずしも映画以来はじめて発明されたものではな・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ロシア映画で教養も何もない農夫が最も光ったスターとして現われ、アメリカ映画でも土人のほうが白人の映画俳優の下っぱなどより比較にならぬほどいい芝居をして見せるのも同様な現象である。自然を背景とした芝居では人間もやはり自然な芝居をしなければつり・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
出典:青空文庫