・・・のみならず何度も海戦をして来た××に対する尊敬のためにいつも敬語を用いていた。 するとある曇った午後、△△は火薬庫に火のはいったために俄かに恐しい爆声を挙げ、半ば海中に横になってしまった。××は勿論びっくりした。(もっとも大勢の職工たち・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・貯金の宣伝は紙芝居でずいぶんやったし、それに私の経歴が経歴ですから、われながら苦笑するくらいの適任だと言えるわけですが、しかしたった一つ私の悪い癖は、生れつき言葉がぞんざいで、敬語というものが巧く使えない。それはこの話しっぷりでもいくらか判・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・という動詞に敬語がつけられるのを私はうかつに今日まで知らなかったが、これもある評論家からきいたことだが、犬養健氏の文学をやめる最後の作品に、犬養氏が口の上に飯粒をつけているのを見た令嬢が「パパ、お食事がついてるわよ」という個所があるそうだが・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・てるは、その物腰の粗雑にして、言語もまた無礼きわまり、敬語の使用法など、めちゃめちゃのゆえを以て解雇されたのである。 美濃は、知らぬ振りをしていた。 三日を経て、夜の九時頃、美濃十郎は、てるの家の店先にふらと立っていた。「てるは・・・ 太宰治 「古典風」
日本語と云うものが、地球上、余り狭小な部分にのみ通用する国語であると云うことは、文筆に携る者にとって、功利的に考えれば、第一、損な立場であると思います。 使用上、所謂、敬語、階級的な感情、観念を現す差別の多いこと、女の・・・ 宮本百合子 「芸術家と国語」
・・・という敬語的な冠が空にいるのであろうか。空は空として芸術的にまったく美しい。そして、科学的の正しさにおいても心配はない。花は花であるからこそいきいきとして目と心を奪う花なのではないだろうか。お花といわれると私たちは仏さんのお花という連想があ・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
出典:青空文庫