・・・当時にあっては、佐藤春夫は芸術の技法の面から日本文脈の研究について一つの見解を示していたが、それは今日の佐藤春夫が「もののあわれ」を云々する内容、傾向とはその社会的性質に於て遙かに淡白な作家気質によったのであった。横光利一氏が本年一月『改造・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 日本の文脈ということについて極端にさかのぼってだけ考える人々の間には、漢語で今日通用されている種々の名詞や動詞を、やまとことばというものに翻訳し、所謂原体にかえした云いかたで使わせようという動きもある。果して、現実の可能の多い方法であ・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
・・・蘆花は当時としては欧州文化を早く吸収したクリスチャン出であったのだけれども、自然を描写する場合になると、漢文脈の熟語、形容詞をつかって、こんにちの読者にはふり仮名なしにはよめない麗句で朝日ののぼる姿を描き、あるいは、余情綿々たる和文調で草木・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・しかしそのうまさというものも、内容の調子の低さにふさわしく紅葉時代硯友社の文脈を生きかえらせた物語体であり、天下の名作のようにいわれた谷崎潤一郎の「春琴抄」がひとしく句読点もない昔の物語風な文章の流麗さで持てはやされたことと思い合わせ、私は・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・日本の文学者の運命をいうとき、その文脈の底には、「日本の文学は日本そのものの反映なのだ」「日本の芸術の基本的方法はイデエの根をもたず感覚によるのだ」という、きょうではもう半過去になりつつある事実に執しすぎているために、感傷をさけがたい知性の・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・その一つは古典が文学として発生した歴史性を立体的に咀嚼して、そこからの滋養分を摂取してゆこうとする発展的、批判的摂取の態度であり、他の一つは、それとは反対にどちらかと云うと外部的に、様式、文脈の応用を狙ったような古典のひもときかたをしてゆく・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・において、主題の継承化のために必要な文章とは全く本質において違う文脈に属する文章の俳句風な含蓄、語らずして推察させようとする省略法の誤った使用などによって、知らず知らず煩わされていることを強く感じるのである。 島木健作氏の諸作を読んで、・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
出典:青空文庫