・・・佐伯は断定を下した。「くだらない。そんな言い古された事を、僕たちは考えているんじゃないよ。しっかりした人間とは、どんなものだか、それを見せてもらいたいんだ。」「そうですね。」熊本君は、ほっとした顔をして、佐伯の言を支持した。「酒を飲む人・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・君の言うことは生理学万能で、どうも断定すぎるよ」 「いや、それは説明ができる。十八、九でなければそういうことはあるまいと言うけれど、それはいくらもある。先生、きっと今でもやっているに相違ない。若い時、ああいうふうで、むやみに恋愛神聖論者・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・の字などはかなり著しくちがっていて、全く同人の手であるとは断定しにくいようなところがあった。一方でA村の姉のはほとんど自筆で、たまに代筆があっても手跡は全くちがっていてこのほうはほとんど問題にならなかった。「まだ研究していらっしゃるの。・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・かくのごとき場合には公算論の指示する統計的方法を取る外なかるべきも、公算が変数の連続函数なりと断定し難く、また最大公算を有する場合が唯一ならざる場合には特別に慎重なる考慮を要すべし。 地震予報をして天気予報のごとき程度まで有効ならしむる・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 非常な暴風のために空気中に物理的な発光現象が起るということは全然あり得ないと断定することも今のところ困難である。そういう可能性も全く考えられなくはないからである。しかし何よりも先ず事実の方から確かめてかかる事が肝心であるから、万一読者・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ギリシア人と中央アジア並びにインド人と交渉のあったことは確かであり、後者とシナ人、シナ人と日本人とそれぞれの交通のあったことも間違いないとすれば、歌謡のごときものが全く相互沒交渉に別々に発達したと断定するのも少し危険なような気がするのである・・・ 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・ 断定的に帰宅を促した電文が、それから間もなく辰之助の家からお絹の家へ届いて、道太はにわかに出立を急ぐことになった。 支度をしに二階へあがると、お絹もついてきて、荷造りをしてくれた。「こんなものはバスケットがいいんでしょう」お絹・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・然し此等の断定の当っていなかった事は、やがて僕等一同が銀座のカッフェーには全く出入しないようになってから、或日突然お民が僕の家へ上り込んで、金銭を強請した時の、其態度と申条とによって証明せられることになった。お民の態度は法律の心得がなくては・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・団体の意識の内容を検して見るとたとえ一カ月に亘ろうが一年に亘ろうが一カ月には一カ月を括るべき炳乎たる意識があり、また一年には一年を纏めるに足る意識があって、それからそれへと順次に消長しているものと私は断定するのであります。吾々も過去を顧みて・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・使も手紙も来ない所をもって見るとやっぱり病気は全快したに相違ない、大丈夫だ、と断定して眠ろうとする。合わす瞳の底に露子の青白い肉の落ちた頬と、窪んで硝子張のように凄い眼がありありと写る。どうも病気は癒っておらぬらしい。しらせはまだ来ぬが、来・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
出典:青空文庫