・・・(森の祠の、金勢明神 話に聞いた振袖新造が――台のものあらしといって、大びけ過ぎに女郎屋の廊下へ出ましたと――狸に抱かれたような声を出して、夢中で小一町駆出しましたが、振向いても、立って待っても、影も形も見えませ・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 扱帯の下を氷で冷すばかりの容体を、新造が枕頭に取詰めて、このくらいなことで半日でも客を断るということがありますか、死んだ浮舟なんざ、手拭で汗を拭く度に肉が殺げて目に見えて手足が細くなった、それさえ我儘をさしちゃあおきませなんだ、貴女は・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・しかも女の新造だ。女の新造に違いはないが、今拝んだのと較べて、どうだい。まるでもって、くすぶって、なんといっていいか汚れ切っていらあ。あれでもおんなじ女だっさ、へん、聞いて呆れらい」「おやおや、どうした大変なことを謂い出したぜ。しかし全・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・去年の秋嫁いて……金さんも知っておいでだろう、以前やっぱり佃にいた魚屋の吉新、吉田新造って……」「吉田新造! 知ってるとも。じゃお光さん、本当かい?」「はあ」と術なげに頷く。「ふむ!」とばかり、男は酔いも何も醒め果ててしまったよ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・けれど、思想のお化けの数が新造語の数ほどあって、しかも、どれをも信じまいとする心理主義から来る不安を、深刻がることを、若き知識人の特権だと思っているような東京に三年も居れば、いい加減、故郷の感覚がなつかしくなって来る筈だ。なつかしくなれば、・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・今度は三十ばかしの野郎よ、野郎じゃアねッからお話になんねエ、十七、八の新造と来なきゃア、そうよそろそろ暑くなるから逆上せるかもしんねエ。』と大きな声で言うのは『踏切の八百屋』である。『そうよ懐が寒くなると血がみんな頭へ上って、それで気が・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・朝、垣根越しにとなりの庭を覗き見していたら、寝巻姿のご新造が出て来て、庭の草花を眺め、つと腕をのばし朝顔の花一輪を摘み取った。ああ風流だな、と感心して見ていたら、やがて新造は、ちんとその朝顔で鼻をかんだ。 モオパスサンは、あれは、女の読・・・ 太宰治 「女人創造」
・・・大きな丸太を針金で縛り合せた仮橋が生ま生ましく新しいのを見ると、前の橋が出水に流されてそのあとへ新造したばかりであろうかと思われた。雨と一緒に横しぶきに吹きつける河霧がふるえ上がるように寒かった。 河向いから池までの熊笹を切開いた路はぐ・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・これには前述の二十三プロセントニッケル鋼を羅針盤の近傍必要の箇所に使ったらよいというので、目下ブレメンで新造中の船にはこれを採用するはずになっている。 八十八 科学者の不遇 科学者が・・・ 寺田寅彦 「話の種」
・・・と、吉里の後から追い縋ッたのはお熊という新造。 吉里は二十二三にもなろうか、今が稼ぎ盛りの年輩である。美人質ではないが男好きのする丸顔で、しかもどこかに剣が見える。睨まれると凄いような、にッこりされると戦いつきたいような、清しい可愛らし・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫