・・・ 私のえがいているもの――そうですね、私は慾張りの方ですから、随分いろいろな慾望がありますけれど、日常の生活でいえば、さしあたり静かなところへ旅行したいと思っています。同じ旅行でも関西方面より北の方がいいと思います。大阪、京都などのよう・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・誰も彼も旅行してしまいます。若い娘なんぞがスウィッツルに行って、高い山に登ります。跡に残っている人は為方がないので、公園内の飲食店で催す演奏会へでも往って、夜なかまで涼みます。だいぶ北極が近くなっている国ですから、そんなにして遊んで帰って、・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ところへ大層急ぎ足で西の方から歩行て来るのはわずか二人の武者で、いずれも旅行の体だ。 一人は五十前後だろう、鬼髯が徒党を組んで左右へ立ち別かれ、眼の玉が金壺の内ぐるわに楯籠り、眉が八文字に陣を取り、唇が大土堤を厚く築いた体、それに身長が・・・ 山田美妙 「武蔵野」
保険会社の役人テオドル・フィンクは汽車でウィインからリヴィエラへ立った。途中で旅行案内を調べて見ると、ヴェロナへ夜中に着いて、接続汽車を二時間待たなくてはならないということが分かった。一体気分が好くないのだから、こんなことを見付けて見・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・ フロベニウスは一九〇六年、その第一回の探検旅行の際には、なお、コンゴーのカッサイ・サンクル地方で、カピタンが描いたと同じような村々を見た。そこの街道は何マイルも続いて両側に四重の棕櫚の並み木を持っていた。そこの小家はいずれも惚れ惚れす・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫