・・・ 1 冬が来て私は日光浴をやりはじめた。溪間の温泉宿なので日が翳り易い。溪の風景は朝遅くまでは日影のなかに澄んでいる。やっと十時頃溪向こうの山に堰きとめられていた日光が閃々と私の窓を射はじめる。窓を開けて仰ぐと、溪の・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・海岸で裸で日光浴をやっているオットセイのような群れも号令でいっせいに寝返りを打ってこちらを向く。おおぜいの子供が原っぱに小さなきのこの群れのように並んで体操をやっている。赤ん坊でもちょうど蛙か何かのように足をつかまえてぶらさげてぴょんぴょん・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかし田舎にはまた人工的の風呂の代りに美しい自然に囲まれた日光浴場がある。如何に鉄道が拡がっても製糸工場が増しても、まだまだそこらの山陰や川口にはこんな浴場はいくらも残っているだろう。 こんな取り止めも付かぬ事を色々な人に話してみた・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・ 赤坊たちは、未来の闘士も婦人技術家もズラリと並んだ白い小さい寝台におさまり、夏なら白樺の木かげで、臍まで日光浴をしながら、三時間おきに、二十分間ずつ乳をのませに職場からやって来るおふくろの胸に熱烈な生活力で吸いつくというわけだ。 ・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・ 芝生の上では、日光浴をしている白い新鮮な患者たちが坂に成った果実のように累々として横たわっていた。 彼は患者たちの幻想の中を柔かく廊下へ来た。長い廊下に添った部屋部屋の窓から、絶望に光った一列の眼光が冷たく彼に迫って来た。 彼・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫