・・・ 今お前が言訳をして、今日からどんな優しい気になろうとも、とても助からない吾に取っては、何の利益も無いことで、死んでしまえば、それ、お前は日本晴で、可いことをして楽むんじゃ。そううまくはきっとさせない。言訳がましいことを謂うな。聞くよう・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・ あの人は、かねがね私の醜い容貌を、とても細心にかばってくれて、私の顔の数々の可笑しい欠点、――冗談にも、おっしゃるようなことは無く、ほんとうに露ほども、私の顔を笑わず、それこそ日本晴れのように澄んで、余念ない様子をなさって、「いい・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・珍しい日本晴。旧暦十六夜の月が赤く森から出る。八月二十八日 晴、驟雨 朝霧が深く地を這う。草刈。百舌が来たが鳴かず。夕方の汽車で帰る頃、雷雨の先端が来た。加藤首相葬儀。八月二十九日 曇、午後雷雨 午前気象台で藤原君の・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
出典:青空文庫