・・・ 何ゆえにこのような区域に、特に降水が多いかという理由について、筒井氏の説を引用すると、冬季日本海沿岸に多量の降雨をもたらす北の季節風が、若狭近江の間の比較的低い山を越えて、そして広い琵琶湖上から伊勢湾のほうへ抜けようとする途中で雪を降・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・ ついこのあいだもある学者がアメリカの学会へ行って「黄海の水を日本海へ注入して電力を起こす」という設計を提出して世界の学者を驚かせたという記事が出た。数日後に電車でひょっくりその学者に会って「君はアメリカに行っているはずじゃないですか」・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ 青森湾沿岸の家の屋根の様式は日本海海岸式で、コケラ葺の上に石塊を並べてあるのが多い。汽車から見た青森市の家はほとんど皆トタン葺またはコケラ葺の板壁である。いかにも軽そうで強風に吹飛ばされそうな感じがする。永久性と落着きのないのは、この・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・また、日本海海岸には目立たなくて太平洋岸に顕著な潮汐の現象を表徴する記事もある。 島が生まれるという記事なども、地球物理学的に解釈すると、海底火山の噴出、あるいは地震による海底の隆起によって海中に島が現われあるいは暗礁が露出する現象、あ・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・ 日露戦役の際でも我軍は露兵と戦うばかりでなく、満洲の大陸的な気候と戦わなければならなかった。日本海の海戦では霧のために蒙った損害も少なくなかった。こういう場合に気象学や気候学の知識が如何に貴重であるかは世人のあまり気の付かぬ事である。・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・しかし、逆説的に聞えるかもしれないが、その同じ颱風はまた思いもかけない遠い国土と日本とを結び付ける役目をつとめたかもしれない、というのは、この颱風のおかげで南洋方面や日本海の対岸あたりから意外な珍客が珍奇な文化を齎して漂着したことがしばしば・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 比較的新しい地質時代まで日本が対馬のへんを通して朝鮮と陸続きになっていたことは象や犀の化石などからも証明されるようであるが、それと連関して、もしも対馬朝鮮の海峡をふさいでしまって暖流が日本海に侵入するのを防いだら日本の気候に相当顕著な・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・まず何よりもこの大火を大火ならしめた重要な直接原因は当時日本海からオホツク海に駆け抜けた低気圧のしわざに帰せなければならない。天気図によると二十一日午前六時にはかなりな低気圧の目玉が日本海の中央に陣取っていて、これからしっぽを引いた不連続線・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・こういう場合は、たいてい顕著な不連続線が日本海から太平洋へ向かって進行の途中に本州島弧を通過する場合であることは、統計的研究の結果から明らかになったことである。「日が悪い」という漠然とした「説明」が、この場合には立派に科学的の言葉で置き換え・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・僅か五隻のペリー艦隊の前に為す術を知らなかったわれらが、日本海の海戦でトラファルガー以来の勝利を得たのに心を躍らすのである。 下 先生はこの驚嘆の念より出立して、好奇心に移り、それからまた研究心に落ち付いて、この・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
出典:青空文庫