・・・伯父のところに、わずかながら蔵書がありますので、時たま明治大正の傑作小説集など借りて読み、感心したり、感心しなかったり、甚だふまじめな態度で吹雪の夜は早寝という事になり、まったく「精神的」でない生活をして、そのうちに、世界美術全集などを見て・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・ そのお家の庭の隅で炊事をして、その夕方、六畳間でみんな早寝という事になり、けれども妻も義妹もひどく疲れていながらなかなか眠れぬ様子で、何かと身の振方などに就いて小声で相談している。「なに、心配する事はないよ。みんなで、おれの生れ故・・・ 太宰治 「薄明」
・・・このごろは、早寝早起を励行している。少しでも一般市民の生活態度にあゆみ寄りたい悲壮の心からである。早起のほうは、さほど苦痛でない。私は、老いの寝覚めをやるほうなので、夜明けが待ち遠しいことさえある。睡眠時間が、短いのである。からだのどこかが・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・ 四日。火曜日、夜中の二時。 早寝をしているはずなのに、こんな時間に手紙を書いたのではすっかり馬脚をあらわしてしまいますね。しかし、今夜は眠る前ぜひ一筆かきたい。けさついた七月二十五日づけのお手紙のお礼を。 あれはまるであなたの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫