・・・「じゃ明日いらっしゃい。それまでに占って置いて上げますから」「そうか。じゃ間違いのないように、――」 印度人の婆さんは、得意そうに胸を反らせました。「私の占いは五十年来、一度も外れたことはないのですよ。何しろ私のはアグニの神・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・そして今年になって、農場がようやく成墾したので、明日は矢部もこの農場に出向いて来て、すっかり精算をしようというわけになっているのだ。明日の授受が済むまでは、縦令永年見慣れて来た早田でも、事業のうえ、競争者の手先と思わなければならぬという意識・・・ 有島武郎 「親子」
・・・自然主義を捨て、盲目的反抗と元禄の回顧とを罷めて全精神を明日の考察――我々自身の時代に対する組織的考察に傾注しなければならぬのである。 五 明日の考察! これじつに我々が今日においてなすべき唯一である、そうしてまたす・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 私は熟と視て、――長野泊りで、明日は木曾へ廻ろうと思う、たまさかのこの旅行に、不思議な暗示を与えられたような気がして、なぜか、変な、擽ったい心地がした。 しかも、その中から、怪しげな、不気味な、凄いような、恥かしいような、また謎の・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・いずれにしても明日の事は判らない。判らぬ事には覚悟のしようもなく策の立てようも無い。厭でも中有につられて不安状態におらねばならぬ。 しかしながら牛の後足に水がついてる眼前の事実は、もはや何を考えてる余地を与えない。自分はそれに促されて、・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・で、僕は明日ひとまず帰京することに定めた。 それにしても、今、吉弥を紹介しておく方が、僕のいなくなった跡で、妻の便利でもあろうと思ったから、――また一つには、吉弥の跡の行動を監視させておくのに都合がよかろうと思ったから――吉弥の進まない・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・中には薄々感づいて沼南の口占を引いて見たものもあったが、その日になっても何とも沙汰がないので、一日社務に服して家へ帰ると、留守宅に社は解散したから明日から出社に及ばないという葉書が届いているんだから呆気に取られてしまった。 いやしくも沼・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・ソコで友人がいうには「明日の朝早く持ってこい、そうすれば貸してやる」といって貸してやったら、その人はまたこれをその家へ持っていって一所懸命に読んで、暁方まで読んだところが、あしたの事業に妨げがあるというので、その本をば机の上に抛り放しにして・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・それは明日午前十時に、下に書き記してある停車場へ拳銃御持参で、おいで下されたいと申す事です。この要求を致しますのに、わたくしの方で対等以上の利益を有しているとは申されますまい。わたくしも立会人を連れて参りませんから、あなたもお連にならないよ・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・「じゃ、明日、お姉さんのお墓へ、いっしょにゆこう。」と、勇ちゃんが、いいました。 翌日は、いいお天気でした。ふたりは、町を距たった、林の下にあった寺の墓地へまいりました。墓地は雪に埋まっていましたけれど、勇ちゃんは、木に見覚えがあっ・・・ 小川未明 「青い星の国へ」
出典:青空文庫