・・・「その……宿代だが、明朝じゃいかんでしょうか。」「明朝――今夜持合せがないのかね。」「明朝になればできるんだが……」と私は当座れを言う。「明日だって、どうせ外へ出てでかすんだろうがね、それじゃ私の方で困らあね。今夜何か品物で・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・ 浜子は世帯持ちは下手ではなかったが、買物好きの昔の癖は抜けきれず、おまけに継子の私が戻ってみれば、明日からの近所の思惑も慮っておかねばならないし、頼みもせぬのに世話を焼きたがるおきみ婆さんの口も怖いと、生みの母親もかなわぬ気のよさを見・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ ……これで明日明後日となったら――ええ思遣られる。今だって些ともこうしていたくはないけれど、こう草臥ては退くにも退かれぬ。少し休息したらまた旧処へ戻ろう。幸いと風を後にしているから、臭気は前方へ持って行こうというもの。 全然力が脱けて・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・なあにね、明日あたり屹度母さんから金が来るからね、直ぐ引越すよ、あんな奴幾ら怒ったって平気さ」 膳の前に坐っている子供等相手に、斯うした話をしながら、彼はやはり淋しい気持で盃を嘗め続けた。 無事に着いた、屹度十日までに間に合せて金を・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・それらは、それらをもらった八百屋が取りに来る明日の朝まで、空家の中に残されている。 灯が消えた。くらやみを背負って母親が出て来た。五人の幼い子供達。父母。祖母。――賑かな、しかし寂しい一行は歩み出した。その時から十余年経った。 ・・・ 梶井基次郎 「過古」
・・・荻の上風、桐は枝ばかりになりぬ。明日は誰が身の。 川上眉山 「書記官」
・・・りたまえどもお手が利き候わず情けなき事よと御嘆きありせめては代筆せよと仰せられ候間お言葉どおりを一々に書き取り申し候 必ず必ず未練のことあるべからず候 母が身ももはやながくはあるまじく今日明日を定め難き命に候えば今申すことをば今・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・すみません、明日来てくださらない。」 ガーリヤは云った。「いつでも明日来いだ。で、明日来りゃ、明後日だ。」「いえ、ほんとに明日、――明日待ってます。」 四 雪は深くなって来た。 炊事場へザンパンを貰いに来・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・吉が 「旦那は明日は?」 「明日も出るはずになっているんだが、休ませてもいいや。」 「イヤ馬鹿雨でさえなければあっしゃあ迎えに参りますから。」 「そうかい」と言って別れた。 あくる朝起きてみると雨がしよしよと降っている。・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・と法廷に揚言せる二十六歳の処女シャロット・ゴルデーは、処刑に臨みて書を其父に寄せ、明日(に此意を叫んで居る、曰く「死刑台は恥辱にあらず、、恥辱なるは罪悪のみ」と。 死刑が極悪・重罪の人を目的としたのは固よりである、従って古来多くの恥ずべ・・・ 幸徳秋水 「死生」
出典:青空文庫