・・・これまでの改造社版ができた頃の日本の解放運動のなかで、一つの癖のように使われたぎくしゃくした明晰を欠いた文章がひっかかりとなって、たださえむずかしい部分が、まるでむずかしかった。ほんとに頭が痛くなった。マルクス=エンゲルスの論理的な文章と日・・・ 宮本百合子 「生きている古典」
・・・歴史一般が、今日は重く顧みられているが、それは過去の炬火として今日へ光りをそそぐべきものとして扱われていて、今日の現実の光が過去の現実を明晰にして明日の糧とするという意嚮に立つ面は弱いと思われる。いくつかの文学作品の題材は、過去に求められて・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ちに生かされて変化を受けつつあるのだから、今日私たちが、現実の前で膝をついた形でなく、現実の上に美しく健気に立った形としての幸福を獲ようとすれば、自分の生まれ合わせた社会と自分とについてのきわめて広い明晰な把握がなくてはならなくなって来てい・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・ 私たちの文化への感覚は、自分たちの生活に関して現実的に明晰な判断を持たなければなるまいと思う。音楽が好きとか分るとかいうことだけが私たちの文化の内容ではなくして、今日ではもう生活と音楽との相互的な生理がわかるとこまで育って来る必要が示・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・は、オオドゥウの人生に対するまともさ、暖かさ、健全な怒りと厭悪、働いて生きてゆく女、人間として現実を見ている眼の明晰さが、最も美しくあらわれている作品だと思う。オオドゥウの、そのままで一つの物語をなしているような生涯がそれだけで彼女にあのよ・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・ 女の方は幾分明るく、〔九字伏字〕、〔十五字伏字〕あったが、朝のその刻限には、毎日きまってホーホケキョ、ケキョケキョと明晰な丸い響で高い窓から鶯の声が落ちて来るのであった。鶯の音のする方からは、夕方揚げものをする油の芳ばしい匂いも流れて・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・ロザリーは、苦しんでいた時なので、良人のその注意を意味深く解しましたが、彼女の明晰な頭脳は、自分の感情で物を歪めて見ることは免れました。良人の言葉は本当でした。二人の大きい方の子供達は、確によそのその年の子供のように、無邪気で、愛らしく、感・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・やがて静かな、明晰な口調で、「どうだ、今夜居られるかね?」と訊いた。「僕らはいいです」「それじゃ結構だ。みんな集めるのは夜の方がいい」 ××君は元からプロレタリア文化運動の基礎は工場・農村の中へ置かれなければならないと実・・・ 宮本百合子 「飛行機の下の村」
・・・ 道長の出世の原因 藤原為業は明晰な、而して皮肉な頭の男であったらしい。望月の欠くるところなきを我世と観じた道長の栄華のそもそもの原因を斯う云って居る。 二十三で権中納言、二十七で従二位中宮太夫となった道長は、三・・・ 宮本百合子 「余録(一九二四年より)」
出典:青空文庫