・・・ と昔語りに話して聞かせた所為であろう。ああ、薄曇りの空低く、見通しの町は浮上ったように見る目に浅いが、故郷の山は深い。 また山と言えば思出す、この町の賑かな店々の赫と明るい果を、縦筋に暗く劃った一条の路を隔てて、数百の燈火の織目か・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・も早い札附き、男ひとりが女の道でござりまするか、もちろん、それでわたしも決めました、決めたとは誰を、誰でもない山村の若旦那俊雄さまとあにそれこうでもなかろうなれど機を見て投ずる商い上手俊雄は番頭丈八が昔語り頸筋元からじわと真に受けお前には大・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ ところがこの作品は第二回目になると、まるで子供時代の昔語りになってゆきました。書かれるモティーヴが強烈でなくなって、楽な昔語りになってしまった。第一回目の冒頭にメロディアスな技術で奏ではじめた、わが汚辱をえぐりあばくという文学の身がま・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
出典:青空文庫