・・・……しかも真中に、ズキリと庖丁目を入れた処が、パクリと赤黒い口を開いて、西施の腹の裂目を曝す…… 中から、ずるずると引出した、長々とある百腸を、巻かして、束ねて、ぬるぬると重ねて、白腸、黄腸と称えて売る。……あまつさえ、目の赤い親仁や、・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・おのれ竜にもなる奴が、前世の業か、死恥を曝すは不便だ。――俺が葬ってやるべえ。だが、蛇塚、猫塚、狐塚よ。塚といえば、これ突流すではあんめえ。土に埋めるだな、土葬にしべえ。(半ばくされたる鯉の、肥えて大なるを水より引上ぐ。客者引導の文句は知ら・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・――その赤蜻蛉の刺繍が、大層な評判だし、分けて輸出さきの西洋の気受けが、それは、凄い勢で、どしどし註文が来ました処から、外国まで、恥を曝すんだって、羽をみんな、手足にして、紅いのを縮緬のように唄い囃して、身肌を見せたと、騒ぐんでしょう。」・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・しかし彼にはただ窓を明け崖路へ彼らの姿を晒すということばかりでもすでに新鮮な魅力であった。彼はそのときの、薄い刃物で背を撫でられるような戦慄を空想した。そればかりではない。それがいかに彼らの醜い現実に対する反逆であるかを想像するのであった。・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・そして今自分の待っていたものは、そんな欲望に刺戟されて崖路へあがって来るあの男であり、自分の空想していたことは自分達の醜い現実の窓を開けて崖上の路へ曝すことだったのだ。俺の秘密な心のなかだけの空想が俺自身には関係なく、ひとりでの意志で著々と・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・泥棒どもが、なお安全に、最も悪い泥棒制度を維持しようがためにやっていることを白日の下に曝す必要がある。 吾々の文学はプロレタリアートの全般的な仕事のうちの一分野である。吾々は、プロレタリアートの持つ、帝国主義××××の意志、思想を、感情・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・書かなくてもよいことを書いては恥を曝す癖のついたのはその頃からの病み付きなのである。 夏目先生、虚子、鼠骨、それから多分四方太も一処で神田連雀町の鶏肉屋でめしを食ったことがあった。どうした機会であったか忘れてしまった。その時鼠骨氏が色々・・・ 寺田寅彦 「高浜さんと私」
・・・現代の人間が四十歳くらいで得た人生観や信条をどこまでも十年一日のごとく固守して安心しているのが宜いか悪いか、それとも死ぬまでも惑い悶えて衰頽した躯を荒野に曝すのが偉大であるか愚であるか、それは別問題として、私は「四十にして不惑」という言葉の・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・たとえ省察の結果が誤っていて、そのために流言が実現されるような事があっても、少なくも文化的市民としての甚だしい恥辱を曝す事なくて済みはしないかと思われるのである。 寺田寅彦 「流言蜚語」
・・・今の世間の実際に女子の不身持にして辱を晒す者なきに非ず、毎度聞く所なれども、斯く成果てたる其原因は、父母たる者、又夫たる者が、其女子を深く家の中に閉籠め置かざりしが故なりやと言うに、必ずしも然らず。元来品行の正邪は本人の性質に由り時の事情に・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫