・・・長坂の更科で。我が一樹も可なり飲ける、二人で四五本傾けた。 時は盂蘭盆にかかって、下町では草市が立っていよう。もののあわれどころより、雲を掻裂きたいほど蒸暑かったが、何年にも通った事のない、十番でも切ろうかと、曾我ではなけれど気が合って・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・蕪村の句には夕風や水青鷺の脛を打つ鮓を圧す我れ酒醸す隣あり宮城野の萩更科の蕎麦にいづれのごとく二五と切れたるあり、若葉して水白く麦黄ばみたり柳散り清水涸れ石ところ/″\春雨や人住みて煙壁を漏る・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・栄華物語、源氏物語、枕草子、更級日記その他いろいろの女の文学が女性によってかかれた。なかでも紫式部の名は群をぬいていて、「源氏物語」という名を知らないものはないけれども、その紫式部という婦人は何という本名だったのだろう。紫式部というよび名は・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ほか「更級紀行」「奥の細道」等、日本文学に極めて独自な美をもたらしたのであった。云ってみれば、芭蕉の芸術などというものは爾来二百五十有余年、その道の人々によって研究されつづけて来ているようなものである。芭蕉の美の原理としての「こころ」「不易・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
このごろはどこへ行っても列がある。列に立ってバスにのって用達しに出かけて昼ごろになり、日比谷の公会堂のよこの更科を通りかかったら、青々と蔦をからめた目かくしをあふれてどっさり順番を待っている人々の列があった。この小さい蕎麦・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・「女一人大地を行く」を貫いて発展して出て来たところに通じているのではなかろうかと思われる。 日本文学が、万葉集時代、源氏、枕草子その他の王朝文学から「和泉式部日記」「更級日記」「十六夜日記」の母としての女性、徳川時代の「女大学」の中の女・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫