・・・ 騎兵は――近づいたのを見れば曹長だった。それが二人の支那人を見ると、馬の歩みを緩めながら、傲然と彼に声をかけた。「露探か? 露探だろう。おれにも、一人斬らせてくれ。」 田口一等卒は苦笑した。「何、二人とも上げます。」「・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・すると母、やはり気がとがめるかして、少し気色を更え、音がカンを帯びて、「なに私どもの処に下宿している方は曹長様ばかりだから、日曜だって平常だってそんなに変らないよ。でもね、日曜は兵が遊びに来るし、それに矢張上に立てば酒位飲まして返すから・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ 長い机の両側に、長い腰掛を並べてある一室に通された。 曹長が鉛筆を持って這入って来て、彼と向い合って腰掛に腰かけた。獰猛な伍長よりも若そうな、小供らしい曹長だ。何か訊問するんだな、何をきかれたって、疑わしいことがあるもんか! 彼は・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ 宿舎の入口には、特務曹長が、むつかしげな、ふくれ面をして立っていた。「特務曹長殿、何かあったんでありますか?」「いや、そのう……」 特務曹長は、血のたれる豚を流し眼に見ていた。そして唇は、味気なげに歪んだ。彼等は、そこを通・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・入口から特務曹長がどなった。「命令が出とるんが分らんのか! 早く帰って準備をせんか!」「さ、ブウがやって来やがった。」 四 数十台の橇が兵士をのせて雪の曠野をはせていた。鈴は馬の背から取りはずされていた。・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・それで二日の午前に、まず第一に陸軍から、大橋特務曹長操縦、林少尉同乗で、天候の観測をするよゆうもなく、冒険的に日光へ飛行機をかり、御用邸の上をせんかいしながら、「両陛下が御安泰にいらせられるなら旗をふって合図をされたい」としたためたかきつけ・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
人物 バナナン大将。 特務曹長、 曹長、 兵士、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。場処 不明なるも劇中マルトン原と呼ばれたり。時 不明。幕あく。砲弾にて破損せる・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・蟻の特務曹長が、低い太い声で言いました。 ねずみはくるっと一つまわって、いちもくさんに天井裏へかけあがりました。そして巣の中へはいって、しばらくねころんでいましたが、どうもおもしろくなくて、おもしろくなくて、たまりません。蟻はまあ兵隊だ・・・ 宮沢賢治 「ツェねずみ」
出典:青空文庫