・・・ そのうちに、狼たちの来襲がいよいよひどくなるばかりで、この家が、笹島先生の仲間の寮みたいになってしまって、笹島先生の来ない時は、笹島先生のお友達が来て泊って行くし、そのたんびに奥さまは雑魚寝の相手を仰せつかって、奥さまだけは一睡も出来・・・ 太宰治 「饗応夫人」
・・・僕の部屋の窓を夜どおし明けはなして盗賊の来襲を待ち、ひとつ彼に殺させてやろうと思っているのであるが、窓からこっそり忍びこむ者は、蛾と羽蟻とかぶとむし、それから百万の蚊軍。(君曰君、一緒に本を出さないか。僕は、本でも出して借金を全部かえしてし・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ などと機嫌のいい時には、手さぐりで下の男の子と遊んでいる様を見て、もし、こんな状態のままで来襲があったら、と思うと、また慄然とした。妻は下の男の子を背負い、私がこの子を背負って逃げるより他しかたが無いだろうが、しかし、そうすると、義妹・・・ 太宰治 「薄明」
・・・敵機来襲の時には、妻が下の男の子を背負い、私は上の女の子を抱いて、防空壕に飛び込みます。先日、にわかに敵機が降下して来て、すぐ近くに爆弾を落し、防空壕に飛び込むひまも無く、家族は二組にわかれて押入れにもぐり込みましたが、ガチャンと、もののこ・・・ 太宰治 「春」
・・・この大動揺は、昨夜の盗賊来襲を契機として、けさも、否、これを書きとばしながら、いまのいままで、なお止まず烈しく継続しているのである。 太宰治 「春の盗賊」
・・・ 一 昭和九年八月三日の朝、駒込三の三四九、甘納豆製造業渡辺忠吾氏が巣鴨警察署衛生係へ出頭し「十日ほど前から晴天の日は約二千、曇天でも約五百匹くらいの蜜蜂が甘納豆製造工場に来襲して困る」と訴え出たという記事が四日・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ 食物に我を忘れて居た鶏共は、不意に敵の来襲をうけてどうする余地もなく、けたたましい叫びと共にバタバタと高い暗い鳥屋に逃げ上ろうとひしめき合う。あまりの羽音に「きも」を奪われたのか、犬はその後には目もくれずにじめじめした土間を嗅ぎ廻る。・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫