・・・王朝時代の文学は、主として婦人によってつくられたということがいわれている。栄華物語、源氏物語、枕草子、更級日記その他いろいろの女の文学が女性によってかかれた。なかでも紫式部の名は群をぬいていて、「源氏物語」という名を知らないものはないけれど・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 紅葉が活動した時代、日本には既に憲法があり、国会が開かれており、官員さんの全盛時代、成り上りの者の栄華が目立った時期である。文学者の世界は当時の権柄なる者にとってもはや自身の啓蒙のためにも、支配のためにも必要がなくなっており、人間並に・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・望月の欠くるところなきを我世と観じた道長の栄華のそもそもの原因を斯う云って居る。 二十三で権中納言、二十七で従二位中宮太夫となった道長は、三十歳の長徳元年、左近衛の大将を兼ねるようになったが、その前後に、大臣公卿が夥しく没した。その年の・・・ 宮本百合子 「余録(一九二四年より)」
・・・世界に誇る日本の古典文学といえば、それがたった一つしかないようにいつもとり出されている源氏物語にしろ、枕草子、栄華物語、その他総てこの時代の婦人たちの作品である。けれども、これらの卓抜な文学的収穫を残した婦人達が、当時の社会でどういう風に生・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・種々の栄華の夢になっている時もある。それかと思うと、その頃碧巌を見たり無門関を見たりしていたので、禅定めいた contemplatif な観念になっている時もある。とにかく取留めのないものであった。それが病人を見る時ばかりではない。何をして・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・その惰力に任せて、彼は依然こんな事をして、丁度創作家が同時に批評家の眼で自分の作品を見る様に、過ぎ去った栄華のなごりを、現在の傍観者の態度で見ているのではあるまいか。 僕の考は又一転して太郎の上に及んだ。あれは一体どんな女だろう。破産の・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・それならそれが生きていた内は栄華をしていたか。なかなかそうばかりでもない世が戦国だものを。武士は例外だが。ただの百姓や商人など鋤鍬や帳面のほかはあまり手に取ッたこともないものが「サア軍だ」と駆り集められては親兄弟には涙の水杯で暇乞い。「しか・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・四万の倉、五万人の侍、三千人の女房を持って、栄華をきわめていたが、不幸にして子がなかった。で、北の方のすすめにしたがって、長谷の観音に参籠し、子をさずけられるように祈った。三七日の夜半に観音は、子種のないことを宣したが、長者は観音に強請して・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫