・・・ 根雪になると彼れは妻子を残して木樵に出かけた。マッカリヌプリの麓の払下官林に入りこんで彼れは骨身を惜まず働いた。雪が解けかかると彼れは岩内に出て鰊場稼ぎをした。そして山の雪が解けてしまう頃に、彼れは雪焼けと潮焼けで真黒になって帰って来・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・たとえば、太古より消える事のなかった高峯の根雪、きらと光って消えかけた一瞬まえの笹の葉の霜、一万年生きた亀の甲、月光の中で一粒ずつ拾い集めた砂金、竜の鱗、生れて一度も日光に当った事のないどぶ鼠の眼玉、ほととぎすの吐出した水銀、蛍の尻の真珠、・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・砂漠と根雪の上に文化の光がさした時、そこにはハッキリその文化をもたらした原動力プロレタリア、農民のための階級的指導力が根をおろしているのだ。 この表でも分るように、例えば婦人の文盲率の最も高いトルクメン、キルギース、ウズベクでさえ、一九・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
春のなだれは、どんなふうにして起るだろう。暖かさが朝ごとにまして来る太陽にとかされてゆく積雪の表面からこれは起らない。冬の間じゅう降りつもって、かたく鋭く氷っていた根雪の底が春に近づく地殼のぬくもりにとけて、ある日、なだれ・・・ 宮本百合子 「小さい婦人たちの発言について」
出典:青空文庫