・・・何かしら棍棒のようなものを数十ずつ一束にしたものを満載している。 近づいてみると、その棒のようなものはみんな人間の右の腕であった。 私は何故かそれを見るとすべての事が解ったような気がした。 鉄の鶴が向うの方で立ち止まって長い鉄の・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・忘れもしねえ、暑い土用の最中に、餒じい腹かかえて、神田から鉄砲洲まで急ぎの客人を載せって、やれやれと思って棍棒を卸すてえとぐらぐらと目が眩って其処へ打倒れた。帰りはまた聿駄天走りだ。自分の辛いよりか、朝から三時過ぎまでお粥も啜らずに待ってい・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・それは犬殺しで帯へ挿した棍棒を今抜こうとする瞬間であった。人なつこい犬は投げられた煎餅に尾を振りながら犬殺しの足もとに近づいて居たのである。犬殺しは太十の姿を見て一足すさった。「何すんだ」 太十は思わず呶鳴った。「殺すのよ」・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・「フン、棍棒強盗としてあるな。どれにも棍棒としてある。だが、汽車にまで棒切れを持ち込みゃしないぜ、附近の山林に潜んだ形跡がある、か。ヘッヘッ、消防組、青年団、警官隊総出には、兎共は迷惑をしたこったろうな。犯人は未だ縛につかない、か。若し・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・荷車を引いて、棍棒を持って犬殺しが来た、と、私共同胞三人は、ぞっとして家の中に逃げ込んだものだ。 白が死んだのは犬殺しに殺されたのか、病気であったのか。今だに判らない。きいて見ても母さえ忘れて居る。どうして連れて来られたのか知らないしろ・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・ 人間の生活が、きわめて原始的であって、わずかに棍棒を武器として野獣を狩って生活していた頃の生産状態では、文化も非常に原始的で数の観念さえもはっきりせず、絵といえば穴居の洞窟の壁にほりつけた野獣の絵があるにとどまった有様であった。それが・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・は人類が獣の皮を腰に巻きつけて棍棒と石でマンモスと戦った時代からの問題であった。 スパルタ以来最も台所から解放された市民はモスクと New York に発見されるであろう。最後にして最大の問題はこの社会的釜から体内に送られる不用なるバイ・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・四日頃からそのような武器を持つことはとめられ、みな樫の棍棒を持つことになった。 やりをかつぎ、闇からぬきみをつき出されたりした。 ◎野沢さんの空屋の部屋で、何かピカリピカリと電気が見えるので変に思って行って見ると、日本人の社会主義者・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・メーデーには棍棒隊をくり出させて、端午は日本の男の節句と他方を向いて色刷写真を輸出させる日本の権力を恥多いものと感じない労働者があるだろうか。ことしの三月八日こそは、日本の人民にとって特別意義がふかい。日本と世界の平和確保のための全面講和を・・・ 宮本百合子 「婦人デーとひな祭」
出典:青空文庫