・・・瞳に引寄せられて、社の境内なる足許に、切立の石段は、疾くその舷に昇る梯子かとばかり、遠近の法規が乱れて、赤沼の三郎が、角の室という八畳の縁近に、鬢の房りした束髪と、薄手な年増の円髷と、男の貸広袖を着た棒縞さえ、靄を分けて、はっきりと描かれた・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・ 十 待乳屋の娘菊枝は、不動の縁日にといって内を出た時、沢山ある髪を結綿に結っていた、角絞りの鹿の子の切、浅葱と赤と二筋を花がけにしてこれが昼過ぎに出来たので、衣服は薄お納戸の棒縞糸織の袷、薄紫の裾廻し、唐繻子の襟を・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ 綿を厚く入れた薄汚れた棒縞の広袖を着て、日に向けて背を円くしていたが、なりの低い事。草色の股引を穿いて藁草履で立っている、顔が荷車の上あたり、顔といえば顔だが、成程鼻といえば鼻が。」「でございましょうね、旦那様。」「高いんじゃ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・荒い棒縞で、帯は、おなじ布地の細紐。柔道着のように、前結びだ。あの、宿屋の浴衣だな。あんなのがいいのだ。すこし、少年を感じさせるような、そんな女がいいのかしら。」「わかったよ。君は、疲れている疲れていると言いながら、ひどく派手なんだね。・・・ 太宰治 「雌に就いて」
・・・娘たちはこの学校へいれられたが最後みんなおそろいの棒縞の制服を着せられて五か月たつまでは一回の外出も許されずに、厳重な舎監のいわゆるプロイセン的な規律のもとに教育を受けなければならないのである。プロイセン軍国的訓練のために生徒たちは「特にお・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫