・・・丁度兄の伊藤八兵衛が本所の油堀に油会所を建て、水藩の名義で金穀その他の運上を扱い、業務上水府の家職を初め諸藩のお留守居、勘定役等と交渉する必要があったので、伊藤は専ら椿岳の米三郎を交際方面に当らしめた。 伊藤は牙籌一方の人物で、眼に一丁・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・平凡な日々の業務に精励するという事こそ最も高尚な精神生活かも知れない。などと少しずつ自分の日々の暮しにプライドを持ちはじめて、その頃ちょうど円貨の切り換えがあり、こんな片田舎の三等郵便局でも、いやいや、小さい郵便局ほど人手不足でかえって、て・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・おのれひとりの業務にのみ、努めること第一であるが、たまには隣人の、かなしくも不抜の自尊心を、そ知らぬふりして、あたためてやりたまえ。」 太宰治 「もの思う葦」
・・・そのすべては娘のかたづいた先の夫の不身持ちから起こったのだといえばそれまでであるが、父母だって、娘の亭主を、業務上必要のつきあいから追い出してまで、娘の権利と幸福を庇護しようと試みるほどさばけない人たちではなかった。三 実を・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・すると彼らには明かに背馳した両面の生活がある事になる。業務についた自分と業務を離れた自分とはどう見たって矛盾である。しかしこの矛盾は生活の性質から出るやむをえざる矛盾だから、形式から云えばいかにも矛盾のようであるけれども、実際の内面生活から・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・衣服飲食を調え家の清潔法に注意し又子供を養育する等は都て人生居家の大事、之を男子戸外の業務に比して難易軽重の別なし。故に此内事の経営を以て妻が夫に仕うるの作法なりと言えば、夫が戸外の事に勉むるは妻に仕うるの作法なりと言わざるを得ず。男女婚姻・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・一 婦人の妊娠出産は勿論、出産後小児に乳を授け衣服を着せ寒暑昼夜の注意心配、他人の知らぬ所に苦労多く、身体も為めに瘠せ衰うる程の次第なれば、父たる者は其苦労を分ち、仮令い戸外の業務あるも事情の許す限りは時を偸んで小児の養育に助力し、暫く・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 日本の真の民主化のために、なお封建的なのこりものの多く容認されているこの草案は不備なものではあるけれども、それでも、人民の権利と業務との規定では、これまでの日本憲法に明記されることのなかった民主的要素をもっているのである。 この草・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・さらにこの多数制の委員のなかから直接な運営委員会を選出し運営委員会はその業務内容を放送委員会に報告すべきものとされる。三十名ないし三十五名の放送委員は公民権を有する国民各層のなかから、最も適当な民主的方法をもって選出されるものとする。以上は・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・けれども、このR氏夫妻のみならず、真個におのおのの業務に対する明確な責任感と、家庭人としての良心が円満な調和を保っている処では、何処にもこれに似た秩序の正しさと、健康な活動が在るように思われます。 勿論、人間の生活が徒に秩序正しいので完・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫