・・・辻という姓だから、あの男は十にしんにゅうをかけたような男だと、極言するひとさえいる位だ。 それはひどいと私はそんな噂を聴いた時思った。しかし、彼の仕事振りを見ていると、やはり金銭のために堕落しているのではないだろうかと、思われる節がない・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・さらに極言すれば、小説も芸術でありません。小説を芸術として考えようとしたところに、小説の堕落が胚胎していたという説を耳にした事がありますが、自分もそれを支持して居ります。創作に於いて最も当然に努めなければならぬ事は、「正確を期する事」であり・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・さらに極言すれば、小説も芸術でありません。小説を芸術として考えようとしたところに、小説の堕落が胚胎していたという説を耳にした事がありますが、自分もそれを支持して居ります。創作に於いて最も当然に努めなければならぬ事は、〈正確を期する事〉であり・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・王子の、今日までの愛情は、極言すれば、愛撫という言葉と置きかえてもいいくらいのものであった。青春の頃は、それもまた、やむを得まい。しかしながら、必ずそれは行き詰まる。必ず危機が到来する。王子と、ラプンツェルの場合も、たしかに、その懐姙、出産・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・最も憂うべき所にして、ある人の説に十全の正直は十全の親愛と両立すべからずといいしも、この辺の事情を極言したるものならん。古今の道徳論者が世人の薄徳を歎き、未だ誠に至らずなど言うは、その言不分明にして徳の公私を分かたずといえども、意のある所を・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 極言すれば、理想を高唱するものも、それに鼓舞されて一躍新生涯を創始しようとする者も、またはそれを傍観するものも、共に、貧弱な沈潜力の所有者であるようにさえ感ぜられる。 強固に、深刻に人生の意識、人類の内容を考察する者が、どうしてよ・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・ 極言すれば、私共の生存が、時で計られるのを全然忘れる必要があると思います。社会の歴史から客観すれば、或る個人がどの時代に生きたということは問題になっても主観としては、これ等の知識からまるで放たれ、もっとももっとも朴直な而も純な太古の心・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫