・・・ 主人は、「気中りがしてもしなくても構いませんが、ただ心配なのは御前ですからな。せっかくご天覧いただいているところで失敗しては堪りませんよ。と云って火のわざですから、失敗せぬよう理詰めにはしますが、その時になって土を割ってみない中は・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・乱暴ではあるが構いはしなかった。「トン、トン、トン」 蹴着けるに伴なって雪は巧く脱けて落ちた。左足の方は済んだ。今度は右のをと、左足を少し引いて、又「トン、トン」と、蹴つけた。ト、漸くに雪のしっかり嵌り込んだのが脱けた途端に・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ と無慾の人だから少しも構いませんで、番町の石川という御旗下の邸へ往くと、お客来で、七兵衞は常々御贔屓だから、殿「直にこれへ……金田氏貴公も予て此の七兵衞は御存じだろう、不断はまるで馬鹿だね、始終心の中で何か考えて居って、何を問い掛・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・でも大して私の方では構いません。「現代」と云う字があって「日本」と云う字があって「開化」と云う字があって、その間へ「の」の字が入っていると思えばそれだけの話です。何の雑作もなくただ現今の日本の開化と云う、こういう簡単なものです。その開化をど・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・「私は何と旦那様から冷かされても構いません。――しかし旦那様雑談事じゃ御座いませんよ」「え?」と思わず心臓が縮みあがる。「どうした。留守中何かあったのか。四谷から病人の事でも何か云って来たのか」「それ御覧遊ばせ、そんなに御嬢様の・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・安倍君曰く、何を言ったって構いません、喜んで聴いているでしょう。 それに、私は此校で教師をしていたことがあります。その時分の生徒は皆恐らく今此所には一人もいないでしょう、卒業したでしょうけれども、しかし貴方がたはその後裔といいますか、跡・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・と冗談半分にいったら「へへへ私もちっとも構いませんがね」とコツコツ釘をうってかける。「どうですこれで角度は……もう少し下向に……裸体美人があなたの方を見下すように――よろしゅうございます」。それから我輩の書棚を作ってやるといって壁の寸法と書・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・私の恋人は、どんな処に埋められても、その処々によってきっといい事をします。構いませんわ、あの人は気象の確かりした人ですから、きっとそれ相当な働きをしますわ。 あの人は優しい、いい人でしたわ。そして確かりした男らしい人でしたわ。未だ若うご・・・ 葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」
・・・「ゆれて踊っているようですが構いませんか。」「なあに心配ありません。どうせチュウリップ酒の中の景色です。いくら跳ねてもいいじゃありませんか。」「そいつは全くそうですね。まあ大目に見ておきましょう。」「大目に見ないといけません・・・ 宮沢賢治 「チュウリップの幻術」
・・・「まあ、お借りしていいんでしょうかしら。」「構いませんとも。どうかゆっくりごらんなすって。じゃ僕もう失礼します。はてな、何か云い残したことがあるようだ。」「お星さまのいろのことですわ。」「ああそうそう、だけどそれは今度にしま・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
出典:青空文庫