・・・直は、家庭のこまこました場合、淋しい靨をよせて私はどうでも構いませんというひとである。「妾のような魂の抜殼はさぞ兄さんにはお気に入らないでしょう。然し私は是で満足です、是で沢山です。兄さんについて今迄何か不足を誰にも云ったことはない積りです・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・根本的に壊された人民大衆に対して、ほんの一部の軍需生産者ばかりが、巨万の富を積んで、謂わば彼を富ましたため社会事情によって惹き起された苦痛な食糧問題にも、住宅問題にも、インフレーションの不安にも、かけ構いない贅沢な暮しをしているということは・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・しかしまずくても構いません。ちっとも不平が無い。諸君と私とを一しょに集めて、小学校のクラスの座順のように並ばせて、私に下座に座ってお辞儀をしろと云うことなら、私は平気でお辞儀をするでしょう。そしてそれは批評家の嫌う石田少介流とかの、何でもじ・・・ 森鴎外 「Resignation の説」
出典:青空文庫