・・・きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・世代から世代へ渡る橋桁は人間の心のその光で目釘をうたれ鏤められていることを彼等は遂に見失わなかったのだ。 宮本百合子 「彼等は絶望しなかった」
・・・ほんの一とき市民の胸を掠めるぼんやりした哀愁の夜が、高架鉄橋のホイッスラー風な橋桁の間から迫って来た。 そういう黄昏、一つの池がある。ふちの青草に横わって池を眺めると、水の上に白樺の影が青く白く映っていた。花咲かぬ水蓮も浮いている。・・・ 宮本百合子 「わが五月」
出典:青空文庫