・・・そして、もっとも注目すべきことは、ファシズムへの精神総動員文学論の、どれをとってみても、その議論のどこかには、当時の文学を客観した場合に見出される欠陥、市民としての判断にうつる文学者生活の弱体な点への批判がふくまれていたことである。だから、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・婦人代議士のどっさり出たことも、この不適当な選挙方法の欠陥のあらわれのように語られた。市川房枝女史も、今の日本に三十九名もの婦人代議士の出たことはよろこぶべきよりも、寧ろ一般有権者の政治的水準の低さという点で反省、警戒されなければならないこ・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ 種々な点から反省して見て、自分には、今日女性が作家としてまだ完全に近い発達を遂げていないのは、箇性の芸術的天分と、過去の文化的欠陥が遺伝的に女性の魂そのものに与えた、深い悲しむべき影響との間に起る、微細な、然し力強い矛盾に原因している・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・マリアはフランスの衛生施設の組織を調べて、一つの致命的と思われる欠陥を見出した。それは後方の病院にも戦線の病院にもX光線の設備をほとんど持っていないという事である。あわれに打ちくだかれた骨の正しい手当、また傷の中の小銃弾や大砲の弾丸の破片を・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・それが、拡大中央委員会に対する各支部の報告に現われた欠陥の明瞭な原因の一つだ。けれども、この現象を日本におけるプロレタリア文化運動全般から観察すると、そこにわれわれは、実にはっきりと階級的文化活動における婦人に関する分野の一般的立ちおくれを・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・その物を見究めることに於いて、個人としての女、個人としての男に就いていうならば、その生活上に於ける色々の意味から、個人としての女の方に、ヨリ多くの欠陥が見出されます。 今、女の立場からその個人の成長に就いていえば、――それは当然私自身の・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・ 母親であるひとの言葉によれば、富美子は生理的に不幸な欠陥をもった婦人であり、自殺の動機もそのことと、相場に大失敗したこととに在るように公表された。もし一人の女が、金にこそ不自由ないが、そのような生理的欠陥を体にもって二十八歳まで生きて・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・よもや西洋で僕の師友にしていた学者のような、オルガニックな欠陥が出来たのではあるまい。そうして見れば飾磨屋は、どうかした場合に、どうかした無形の創痍を受けてそれが癒えずにいる為めに、傍観者になったのではあるまいか。 若しそうだとすると、・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・識らぬ少女と見合いをして縁談を取りきめようなどということは自分にも不可能であったから、自分と同じ欠陥があって、しかも背の低い仲平がために、それが不可能であることは知れている。仲平のよめは早くから気心を識り合った娘の中から選び出すほかない。翁・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・自己をありのままに肯定する心と、要求の前に自己の欠陥を恥ずる心と。誠実と自欺と。努力と無力と。生活を高めようとする心と、ほしいままに身を投げ出して楽欲を求むる心と。――これらのものが絶えず雑多な問題を呼び醒ます。 私の努力はそれと徹底的・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫