・・・ 次女は、二十一歳。ナルシッサスである。ある新聞社が、ミス・日本を募っていた時、あの時には、よほど自己推薦しようかと、三夜身悶えした。大声あげて、わめき散らしたかった。けれども、三夜の身悶えの果、自分の身長が足りない事に気がつき、断念し・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・斜に射すランプの光で唄って居る二女の顔が冴えて見える。一段畢ると家の内はがやがやと騒がしく成る。煙草の烟がランプをめぐって薄く拡がる。瞽女は危ふげな手の運びようをして撥を絃へ挿んで三味線を側へ置いてぐったりとする。耳にばかり手頼る彼等の癖と・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・ 女は妻の遠縁に当たるものの次女であった。その関係でときどき自分の家に出はいるところからしぜん重吉とも知り合いになって、会えば互いに挨拶するくらいの交際が成立した。けれども二人の関係はそれ以上に接近する機会も企てもなく、ほとんど同じ距離・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・しかるに何ぞ図らん、今年の一月、余は漸く六つばかりになりたる己が次女を死なせて、かえって君より慰めらるる身となった。 今年の春は、十年余も足帝都を踏まなかった余が、思いがけなくも或用事のために、東京に出るようになった、着くや否や東圃君の・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・ お熊は四十格向で、薄痘痕があッて、小鬢に禿があッて、右の眼が曲んで、口が尖らかッて、どう見ても新造面――意地悪別製の新造面である。 二女は今まで争ッていたので、うるさがッて室を飛び出した吉里を、お熊が追いかけて来たのである。「・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・男子に二女を娶るの権あらば、婦人にも二夫を私するの理なかるべからず。試に問う、天下の男子、その妻君が別に一夫を愛し、一婦二夫、家におることあらば、主人よくこれを甘んじてその婦人に事るか。また『左伝』にその室を易うということあり。これは暫時細・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・二男は歴史家であるゴロ・マン。次女モニカはハンガリーの美術史家の妻。三男ミハエルはヴァイオリニスト。末娘のエリザベート・マンがピアニストで、イタリーの反ファシスト評論家ボルゲーゼと結婚しているそうである。 内山氏の紹介によると、エリカ・・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・を書いて、日本にもしたしまれているキュリー夫人の二女エヴ・キュリーは、一九四三年に「戦士のあいだを旅して」という旅行記をニューヨークから出版した。それがさいきん「戦塵の旅」という題で、ソヴェト同盟旅行の部分だけ翻訳出版された。一九四一年十一・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 上の娘は、三輪の郵便局の細君になって居る。二女が二十一二で、浜田病院に産婆の稽古をして居る。うちにもちょくちょく遊びに来る、色白な、下膨れの一寸愛らしい娘であった。先頃、学校を出たまま何処に居るか、行方が不明になったと云って、夜中大騒・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・母は二人娘のあった長女で、父親っ子でしたが次女は母親っ子で、昔の家庭ですからお姑も居り、その人も「よっちゃん、よっちゃん」と可愛がるというありさまで、母は母親からは愛されていなかった。従って母に与えられる縁談は、先ほどのいかがわしい取引めい・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
出典:青空文庫