・・・ 月が手を伸ばして太鼓を拾ったのを、誰も気付きませんでした。その夜、月は太鼓を負って、北の方へ旅をしました。 北の方の海は、依然として銀色に凍って、寒い風が吹いていました。そして海豹は、氷山の上にうずくまっていました。「さあ約束・・・ 小川未明 「月と海豹」
・・・そして、以前とは多少、物の見方や考え方なども自分ながら変って来ていることにも気付きますが、併し、そんなことを長々と申しましたところで、それは私自身のことで、この雑誌の読者の方にはわかり悪くもありましょうし、また興味もありますまいかと思われま・・・ 宮本百合子 「アメリカ文士気質」
・・・然し、時が経つに連れ、祖母が私可愛ゆさから気付き始めた。「何故、近頃は百合子もAさんも来ないのか。何かあったのか」 しきりに気を揉み、私の家にも来、声をひそめ、眉をあげて、訳をきかれる。 八十の老女に云ったとて、判ることでもなし・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
出典:青空文庫