・・・「もっとも崇高なる天地間の活力現象に対して、雄大の気象を養って、齷齪たる塵事を超越するんだ」「あんまり超越し過ぎるとあとで世の中が、いやになって、かえって困るぜ。だからそこのところは好加減に超越して置く事にしようじゃないか。僕の足じ・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・構いませんわ、あの人は気象の確かりした人ですから、きっとそれ相当な働きをしますわ。 あの人は優しい、いい人でしたわ。そして確かりした男らしい人でしたわ。未だ若うございました。二十六になった許りでした。あの人はどんなに私を可愛がって呉れた・・・ 葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」
・・・幼少の時より手につけたる者なれば、血統に非ざるも自然に養父母の気象を承るは、あまねく人の知る所にして、家風の人心を変化すること有力なるものというべし。 また、戦国の世にはすべて武人多くして、出家の僧侶にいたるまでも干戈を事としたるは、叡・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・そもそも人の私徳を脩むる者は、何故に自信自重の気象を生じて、自ら天下の高所に居るやと尋ぬるに、能く難きを忍んで他人の能くせざる所を能くするが故なり。例えば読書生が徹夜勉強すれば、その学芸の進歩如何にかかわらず、ただその勉強の一事のみを以て自・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・即ち孔子の如き仁者の「気象」にある。ああ云う聖人の様な心持で居たらば、死を怖れて取乱す事もあるまい。人生の苦痛に対しても然り、聖人だって苦痛は有る、が、その間に一分の余裕があって取乱さん。悠々として迫らぬ気象、即ち「仁」がある。だから思想上・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・あんなひどい旱魃が二年続いたことさえいままでの気象の統計にはなかったというくらいだもの、どんな偶然が集ったって今年まで続くなんてことはないはずだ。気候さえあたり前だったら今年は僕はきっといままでの旱魃の損害を恢復してみせる。そして来年からは・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・どうしてって東京には日本の中央気象台があるし上海には支那の中華大気象台があるだろう。どっちだって偉い人がたくさん居るんだ。本当は気象台の上をかけるときは僕たちはみんな急ぎたがるんだ。どうしてって風力計がくるくるくるくる廻っていて僕たちのレコ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ところがひとり忠直卿という気象の少し激しい本当のことを知りたい人間が、可哀想なことに家来だったらよかったのに封建の殿様に生れてしまった。周りの人間はその人の気質、人間らしい要求を理解することができないから今までの殿様扱いにする。たとえば将棋・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・イギリス人とフランス人、特にドウデエなどがまざまざと特徴づけている南フランスの血が、ファブルの気象の中で境遇的にもダアウィンと撥き合ったことは人間生活の画面として無限に興味がある。 素人でよく分らないけれども、ダアウィンが帰納的に種を観・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・この伯母は気象が男のようにさっぱりしていた。この伯母の主人は近江の国に寺を持っている住職で、一人息子もまた別に寺を持っていた。伯母は家の中の拭き掃除をするとき、お茶や生花の師匠のくせに一糸も纏わぬ裸体でよく掃除をした。ある時弟子の家の者が歳・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫