・・・ね、祖母が、孫と君の世話をして、この寒空に水仕事だ。 因果な婆さんやないかい、と姉がいつでも言ってます。」……とその時言った。 ――その姉と言うのが、次室の長火鉢の処に来ている。―― 九 そこへ、祖母が帰・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ふだんは檻から出て、みんなと遊んでいるのにちがいない。水仕事をしたり、煙草をふかしたり、日本語で怒ったり、そんな女だ。少女の朗読がおわり、教師のだみ声が聞えはじめた。信頼は美徳であると思う。アレキサンドル大王はこの美徳をもっていたがために、・・・ 太宰治 「逆行」
・・・あんまり可愛くて、あたしにいつも綺麗な着物を着せて置いて、水仕事も何もさせたくなかったらしいのね。それはわかるわ。本当はね、お母さんとあたしとは同性愛みたいだったのよ。だから、いやらしくって、にくらしくって、そうして、なんだか淋しくて、思い・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・借りたものは巴里だって返す習慣なのだから、いかな見え坊の細君もここに至って翻然節を折って、台所へ自身出張して、飯も焚いたり、水仕事もしたり、霜焼をこしらえたり、馬鈴薯を食ったりして、何年かの後ようやく負債だけは皆済したが、同時に下女から発達・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 始め、妙に悪寒がして、腰が延びないほど疼いたけれ共、お金の思わくを察して、堪えて水仕事まで仕て居たけれ共、しまいには、眼の裏が燃える様に熱くて、手足はすくみ、頭の頂上から、鉄棒をねじり込まれる様に痛くて、とうとう床についてしまった。頭・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・その二日ほど前から女中が病気で実家に行って居たので私がなりかわって水仕事やふき掃除をして最初の日に二箇所の傷を作った。 働くのが辛いからそう云っちやって電報を打つ様にさせたんだろうなどと祖母が云ったりした。 もう三日ほどしたらと思っ・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・と云う十三四のが水仕事や何かはして居ると見えて、「清子、何とかをして御くれ。と奥さんが大きな声を出すと、店屋の小僧が出す様な調子で、その清子と云うのが返事して居るのをきいて母等は、「女中じゃあない様だが、 ああ朝・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ けれ共、この婆には、実の子が二人もあって皆男で今は村で百姓をして居るのだから、こんな草刈をたのまれたり、人の水仕事を手伝ったりしないで、かかり息子の家で孫の守りでも仕て居たらすみそうに思えた。「お婆さん。何故、息子の処へ居ない・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫