・・・母と妹の浅ましい堕落を知りつつも思い切って言いだし得ず、言いだしても争そうことの出来なかったも当然。苦るしい中を算段して、いやいやながらも母と妹とに淫酒の料をささげたもこれ又当然。 二十四日の晩であった、母から手紙が来て、明二十五日の午・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・其所で疳は益々起る、自暴にはなる、酒量は急に増す、気は益々狂う、真に言うも気の毒な浅ましい有様となられたのである、と拙者は信ずる。 現に拙者が貴所の希望に就き先生を訪うた日などは、先生の梅子嬢を罵る大声が門の外まで聞えた位で、拙者は機会・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・れたばかりでなく、次の世には粟散辺土の日本という島の信州という寒い国の犬と生れ変った、ところが信州は山国で肴などという者はないので、この犬は姨捨山へ往て、山に捨てられたのを喰うて生きて居るというような浅ましい境涯であった、しかるに八十八人目・・・ 正岡子規 「犬」
・・・ 亡くなった妹の事や、浅ましい身に落ちて行く友達が悲しく思い出された。 宮本百合子 「雨の日」
・・・ 目の前に、金の事となると眼の色を変えてかかる義母の浅ましい様子を見るにつけ、田舎の、身銭を切っても孫達のためにする母方の祖母や、もう身につける事のない衣裳だの髪飾りなどをお君の着物にかえた母親が一層有難く慕わしかった。 上気して耳・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・都会の、借金して縮緬の紋附を着る浅ましい気風がこんな山中にまで流れて来て居るのだろう。 教育家でなく、宗教家でないでも、いやな事だと思うよりほか仕方がない。斯うやって、鍍金の指環をはめたい男達は、自分の能力を考えもしずに都会の派手な生活・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 今からもう十八年の昔になるが、自分は『古寺巡礼』のなかで伎楽面の印象を語るに際して、「能の面は伎楽面に比べれば比較にならぬほど浅ましい」と書いた。能面に対してこれほど盲目であったことはまことに慚愧に堪えない次第であるが、しかしそういう・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫