・・・大学などでは一種のアカデミックな社交性というようなもので綺麗ごとに共学されていて、たとえばアメリカの大学の社会科の女子学生と男子学生とが、夏期休暇中の共同研究として、浮浪者の生活調査をやるとか、女子の失業と売淫生活に堕ちてゆく過程の調査だと・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ 窓ガラスが壊れて寒いので、窓の方の側へずらして帽子をかぶり、外套片袖ひっかけて浮浪児みたいな風体で坐ってる。 二人で代り番こに本の目録を作るためタイプライターをうった。 十月三十一日。 雪の上にまつのきがある。黒く強い・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・にもいろんな種類ができて、日本でいう不良少年のような浮浪児を教育する「子供の家」と孤児の「子供の家」とは別になっている。 私たちの訪問したのは、親のないソヴェト同盟の子供たちの暮している「子供の家」の方です。 市の中心から東に向って・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・ 主人公となっている労働者の息子サーニが、優秀な機関手となり、コムソモールとなる迄の生活は、浮浪児の一人として波瀾重畳であり、社会的な犯罪にさえも近づいた時期があった。国内戦時代のことで、そのような悪童的な放浪の道はたまたま赤軍の装甲列・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
フランスの『マリアンヌ』という新聞に、ロシアの大文豪であったレフ・トルストイの孫息子にあたるジャンという少年が、浮浪児として少年感化院に入れられ、そこから脱走して再び警察の手にとらわれたときかいた「ジャンの手記」というもの・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・受身に私共の観賞を支配される形ではあるが、一都市が所有する美の蔵の公平な認識者、批評家として、趣味の浮浪人は暗黙の裡に重んぜられる当然の運命をもっている。何故なら、必要、不必要、自分に似合う似合わない、その他多くの購買者が必ず持つ私的条件を・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・数百万人の戦争未亡人たちのこんにちの生活と、孤児たち、浮浪者たちのこんにち。都内の子供の生活は、そういう日本人民の破滅に蝕ばまれていて、風がわるいからと、自分の貰った子たちは学習院に入れる文学者たちは、その学校の土堤の中に、日本人民の独立や・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・自分たちの祖国のせまくとも誇りあるべき土の上に、浮浪児や失業者や体を売って生きる女性群を放浪させながら、少数のものが自覚のおそい日本人民の統治しやすさについて談笑しながら彼等の国際的なハイボールを傾ける姿を、わたしたち日本の女は、やはり黙っ・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・今日長いおそろしい戦争の結果これ程の未亡人と、浮浪児が何んの人間らしい生活へ進む可能性も国家から保証されないで、おそろしいインフレーションの街に放り出されているとき、平等の親権は、何をなし得るだろう。男女平等の財産権が、どこにその基礎になる・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・我々はここに享楽的浮浪人としての画家、道義的価値に無関心な官能の使徒としての画家を見ずして、人類への奉仕・真善美の樹立を人間最高の目的とする人類の使徒としての画家を見る。もとより画家である限り、その奉仕は「美」への奉仕に限られている。しかし・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫