・・・ほてった皮膚に冷たい筆の先が点々と一抹の涼味を落として行くような気がする。これは化膿しないためだと言うが、墨汁の膠質粒子は外からはいる黴菌を食い止め、またすでに付着したのを吸い取る効能があるかもしれない。 寒中には着物を後ろ前に着て背筋・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・この磧の涼味にはやはり母の慈愛が加味されていたようである。 高知も夕なぎの顕著なところで正常な天気の日には夜中にならなければ陸軟風が吹きださない。それに比べると東京の夏は涼風に恵まれている。ずっと昔のことであるが、日本各地の風の日変化の・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・名利を思うて煩悶絶間なき心の上に、一杓の冷水を浴びせかけられたような心持がして、一種の涼味を感ずると共に、心の奥より秋の日のような清く温き光が照して、凡ての人の上に純潔なる愛を感ずることが出来た。特に深く我心を動かしたのは、今まで愛らしく話・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・名利を思うて煩悶絶え間なき心の上に、一杓の冷水を浴びせかけられたような心持ちがして、一種の涼味を感ずるとともに、心の奥より秋の日のような清く温かき光が照らして、すべての人の上に純潔なる愛を感ずることができた」という個所のあるのに対して、特別・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫