・・・B 君は何日か――あれは去年かな――おれと一緒に行って淫売屋から逃げ出した時もそんなことを言った。A そうだったかね。B 君はきっと早く死ぬ。もう少し気を広く持たなくちゃ可かんよ。一体君は余りアンビシャスだから可かん。何だって真・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・新浪漫主義を唱える人と主観の苦悶を説く自然主義者との心境にどれだけの扞格があるだろうか。淫売屋から出てくる自然主義者の顔と女郎屋から出てくる芸術至上主義者の顔とその表れている醜悪の表情に何らかの高下があるだろうか。すこし例は違うが、小説「放・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・詩とそれらとの関係は、日々の帳尻そうして詩人は、けっして牧師が説教の材料を集め、淫売婦がある種の男を探すがごとくに、何らかの成心をもっていてはいけない。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 粗雑ないい方ながら、以上で私のいわん・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・まるで淫売屋扱いだす。つくづく阿呆な商売した思て後悔してますねんけど、といって、おかしな話だっけど妹と二人でも月に二千円はいりまっしゃろ。わてがもう一ぺん京都から芸者に出るいうても支度に十万円はいりますし、妹をキャバレエへ出すのも可哀相やし・・・ 織田作之助 「世相」
・・・恵子が淫売をしているということも聞いた。それについて入念な――“Eternal Prostitution”“Periodical Prostitution”“Five yen a time”というような言葉までできていた。彼はその事について・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・ それは、知識の淫売店である。いや、しかし、淫売店にだって時たま真実の宝玉が発見できるだろう。それは、知識のどろぼう市である。いや、しかし、どろぼう市にだってほんものの金の指環がころがっていない事もない。サロンは、ほとんど比較を絶したも・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・私は全然無教養な淫売婦と、「人生の真実」とでもいったような事を大まじめで語り合った経験をさえ持っている。無学な老職人に意見せられて涙を流した事だってある。私は世に言う「学問」を懐疑さえしている。彼の談話が、少しも私に快くなかったのは、たしか・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・そして又外人相手のバーで――外人より入れない淫売屋で――又飲んだ。 夜の十二時過ぎ、私は公園を横切って歩いていた。アークライトが緑の茂みを打ち抜いて、複雑な模様を地上に織っていた。ビールの汗で、私は湿ったオブラートに包まれたようにベトベ・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・大部分が戦災をうけ、親を失っている。淫売によって生きなければならない若い女の暮しぶりが、まるで民主日本のシムボルであるかのように描かれ、うつされ、ゴシップされている。 性の解放がジャーナリズムの上に誇張されているのに、現実の恋愛もたのし・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・その母を扶けるために金や子供の衣類を稼ぎの中から仕送りして来る淫売婦である母の妹、性的生活は荒々しい生活の裡に露骨にあらわれて、少女のアグネスに恐怖と嫌悪とを植えつけてしまっている。「大人になるとほかの一切の大人がすることをする――性に没頭・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
出典:青空文庫