・・・ 唯今、七彩五色の花御堂に香水を奉仕した、この三十歳の、竜女の、深甚微妙なる聴問には弱った。要品を読誦する程度の智識では、説教も済度も覚束ない。「いずれ、それは……その、如是我聞という処ですがね。と時に、見附を出て、美佐古はいかがで・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・の仕事を見て観衆がふき出して笑ったという話である。それを気にして国辱と思っている人もあるようである。しかし「原大陸」の茫漠たる原野以外の地球の顔を見たことのないスラヴの民には「田ごとの月」の深甚な意義がわかろうはずはないのである。日本人をロ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・さして深甚の苦痛を感ぜずに捨てることができるものと思っているらしい。飲めない酒もそういう場合には忍んで快く飲むのが、免れがたき人間の義務となしているらしい。ここにおいてか、結婚は社交の苦痛を忍び得る人にして初めてこれを為し得るのである。社交・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・終に臨んで勇敢なるマットン博士に深甚なる敬意を寄せます。」 拍手は天幕をひるがえしそうでありました。「大分露骨ですね、あんまり教育家らしくもないビジテリアンですね。」と陳さんが大笑いをしながら申しました。 ところがその拍手のまだ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 三代目ということは、日本の川柳で極めてリアルに抉って描写されているが、今から先の三代目という時代の日本というものを文化の面でも切実深甚に考慮しなければならないのだろうと思う。世界は複雑に複雑にと推移しているのだから、単純きわまる主観人・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・では、ナチス治下の教育が、どんなにドイツの少年たちを毒しているかをあからさまにしたもので、映画化され、世界に深甚な影響をあたえた。エリカ・マンはまた子供のための冒険物語「シュトッフェルの海外旅行」をも書いているそうである。 ナチス・ドイ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ けれども、この文化の中心の全国的な散開という新しい事実には、それだけの現象にとどまらず、明日の日本にとって、私たちの明日のよろこばしい生活にとって、深甚な意味をもっていると考えられる。 アメリカは勿論のこと、イギリスでもフランスで・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・これも深甚な興味があります。自分のこととして、今これから大長篇を書くことの出来るのをうれしく思います。それは必ず貫徹し得るから。まことに生活の結晶であるから。―― 林町の生活について以前二十枚近く書いたことがありました。ではこの次の手紙・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・次回の総選挙は、そういう意味で極めて重大、深甚な意義を日本の将来の可能性に向ってもっている。今日、人民生活を建て直すために、民主主義はどうしても確立されなければならない。世界的諸関係の中に日本をおき、公の観点から洞察し、心から祖国を愛する者・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・そして、これらのことはジイドがその前書の中で予見していたよりも深甚な反動としての影響を今日の人類の運命と文化の発達の上に明にマイナスなものとして、与えないとは決して云えない。ジイドとして、その結果については思うように思わしめよ、と云うには、・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
出典:青空文庫