・・・国家主義と単なる民族主義とを混同してはならない。私の世界的世界形成主義と云うのは、国家主義とか民族主義とか云うものに反するものではない。世界的世界形成には民族が根柢とならなければならない。而してそれが世界的世界形成的なるかぎり国家である。個・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・しかしそれは両者の立場を混同して、科学の中に哲学を入れるという如きことではない。唯、科学隆盛以来、哲学は科学の下婢となったという感なきを得ない。輓近に至って、単に認識論的となり、更に実用主義的ともなった。哲学は哲学自身の問題を失ったかと思わ・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・然るに今些々たる枝葉よりして、改進一流の内にあたかも内乱を起し、自家の戦争に忙わしくして外患をかえりみず、ついにはかの判然たる二流の分界も、さらに混同するのおそれなきに非ず。もとよりこの二流は、はじめより元素を殊にするものなれば、とうてい親・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ゆえに富貴は貧賤の情実を知り、貧賤は富貴の挙動を目撃し、上下混同、情意相通じ、文化を下流の人に及ぼすべし。その得、四なり。一、文学はその興廃を国政とともにすべきものにあらず。百年以来、仏蘭西にて騒乱しきりに起り、政治しばしば革るといえど・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・然かのみならず、その教えの主義たるや、ややもすれば政治論に混同して重きを政治に置き、これに関する徳義は固より公徳なるが故に、かえって私徳を後にして公徳を先にするものさえなきにあらず。例えば忠義正直というが如き、政治上の美徳にして、甚だ大切な・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・三年前には、文学における政治の優位性という問題が、政治への嫌悪、権力への屈服の反撥と混同され、その基本的な理解において、論議の種でした。一年一年が経つごとに社会と政治の現実は、人間性と文化の擁護のためにはファシズムと闘わなければならないとい・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・の提唱に、こういうごく素朴な、政治と文学との混同が顕著であることは注目に価する。老藤村が、文化勲章の制定に感激しつつ、いまだ文学が一般の人、特に政治家に分っていないこと、そのためにこのよろこびが些かほがらかならざることに遺憾の心をのべている・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・に讚歎するとき若い婦人たちはそれぞれの主人公たちの伝奇的な面へロマンティックな感傷をひきつけられ、科学というとどこまでも客観的で実証的な人間精神の努力そのものの歴史的な成果への評価と混同するような結果をも生むのである。 婦人の文化の素質・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ けれども、そういう場合、どうして、その人を透して彼を愛す、彼を愛する余りその人をも混同して愛の亢奮の裡に捲き込んでしまうことがないといえましょう。 私の考えに於て、この点が最も重大なのです。若し自分が真個に愛のあるべき状態に迄達し・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・文学におけるリアリズムの問題が、はじめ妙な傾向をもってトリビアリズムと混同して出されたし「ナルプ」は二月解散になったし、今もってその点では問題がのこされている有様です。私はそういうことについても、其だけ切りはなして云々せず、例えば窪川鶴次郎・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫