・・・しかし、心を卑しくしないにせよ、体を卑しくしたその事の恥ずべきは少しも減ずる訳ではないのだ。 先着の伴牛はしきりに友を呼んで鳴いている。わが引いている牛もそれに応じて一声高く鳴いた。自分は夢から覚めた心地になって、覚えず手に持った鼻綱を・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・からも度々噂を聞いて、Yに対する沼南の情誼に感奮した最初の推服を次第に減じたが、沼南の百の欠点を知っても自分の顔へ泥を塗った門生の罪過を憎む代りに憐んで生涯面倒を見てやった沼南の美徳に対する感嘆は毫も減ずるものではない。が、有体にいうと沼南・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・また唇の開きはイからアまで増し、アからウへ向ってまた減ずると仮定する。 今唇の前後の方向の位置をXで表わし、唇の開きをYで表わすとるると、イエアオウと順に発音する場合にXYで表わされる直角坐標図の上の曲線はざっと半円形のようなものになる・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・それでもし虻が花の蕊の上にしがみついてそのままに落下すると、虫のために全体の重心がいくらか移動しその結果はいくらかでも上記の反転作用を減ずるようになるであろうと想像される。すなわち虻を伏せやすくなるのである。こんなことは右の句の鑑賞にはたい・・・ 寺田寅彦 「思い出草」
・・・が、あの際もしもあの建物の中で遭難した人らにもう少し火災に関する一般的科学知識が普及しており、そうして避難方法に関する平素の訓練がもう少し行き届いていたならば少なくも死傷者の数を実際あったよりも著しく減ずることができたであろうという事はだれ・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・かくのごとき見解と期待との相違より生ずる物議は世人一般の科学的知識の向上とともに減ずるは勿論なれども、一方学者の側においても、科学者の自然に対する見方が必ずしも自明的、先験的ならざる事を十分に自覚して、しかる後世人に対する必要もあるべし。(・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・全エントロピーは時と共に増すとも減ずる事はないというのが事実であるとすれば、逆にエントロピーをもって「時」を代表させる事はできないであろうか。普通の「時」とエントロピーとの歩調がいかに一様でないとしても、そこに一つの新しい「時」の観念が成立・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・それで問題も物理的に明白な意味のあるものにするには、例えば海面における光度の百分一とか千分一に減ずる深さ幾何とかいう事にしなければならぬ。このように問題の分析が出来てしまえば、それから一つ一つの問題について別々に研究し、その結果を綜合して初・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・これすなわち余輩の所謂消極の禍にして、今の事態の本位よりも一層の幸福を減ずるものなり。けだし人事の憂患、消極の域内に在るの間は、未だその積極を謀るに遑あらざるなり。 今消極の憂を憂てこれを防ぐにもせよ、積極の利を謀てこれを求るにもせよ、・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・この快楽を菜食ならば著しく減ずると思う。殊に愉快に食べたものならば実際消化もいいのだ。これをビジテリアン諸氏はどうお考であるか伺いたい。」 大へん温和しい論旨でしたので私たちは実際本気に拍手しました。すると私たちの席から三人ばかり祭司次・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫