・・・ 滝田君に最後に会ったのは今年の初夏、丁度ドラマ・リイグの見物日に新橋演舞場へ行った時である。小康を得た滝田君は三人のお嬢さんたちと見物に来ていた。僕はその顔を眺めた時、思わず「ずいぶんやせましたね」といった。この言葉はもちろん滝田君に・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎君」
・・・最後に会ったのはたしか四五月頃でしたか、新橋演舞場の廊下で誰か後から僕の名を呼ぶのでふり返って見ても暫く誰だか分らなかった。あの大きな身体の人が非常に痩せて小さくなって顔にかすかな赤味がある位でした。私はいつも云っていたことですが、滝田さん・・・ 芥川竜之介 「夏目先生と滝田さん」
・・・ これは、画の話ではありませんが、先日、新橋演舞場へ文楽を見に行きました。文楽は学生時代にいちど見たきりで、ほとんど十年振りだったものですから、れいの栄三、文五郎たちが、その十年間に於いて、さらに驚嘆すべき程の円熟を芸の上に加えたであろ・・・ 太宰治 「炎天汗談」
・・・「それは演舞場へお稽古に行くときのお弁当や」「しかし芝居見物もこんなふうにしてゆくとおもしろいね」「こちらかって、幕のうちもあるし、鰻でも何でもあります。でもこれも楽しみやさかえ」お絹はそう言って、それからこの間どこからか貰って・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫