・・・「やっぱり十二指腸の潰瘍だそうだ。――心配はなかろうって云うんだが。」 賢造は妙に洋一と、視線の合う事を避けたいらしかった。「しかしあしたは谷村博士に来て貰うように頼んで置いた。戸沢さんもそう云うから、――じゃ慎太郎の所を頼んだ・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・一つはそのころひどく胃が悪くて絶えず痛んでいたという事が日記の中にも至るところに見いだされ、またいつであったか一度は潰瘍の出血らしいものがあったという話を聞いているから、この病気のためもあったに相違ない。実際その前から胃弱のためにやせこけて・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・一人は胃癌であった、残る一人は胃潰瘍であった。みんな長くは持たない人ばかりだそうですと看護婦は彼らの運命を一纏めに予言した。 自分は縁側に置いたベゴニアの小さな花を見暮らした。実は菊を買うはずのところを、植木屋が十六貫だと云うので、五貫・・・ 夏目漱石 「変な音」
・・・幽門の潰瘍風のものであったと見え、まさ子は殆ど医者にかからず、忍耐と天然の力をたのみに癒した。自分の体は自分が一番よく知っている、そのように今度も云った。 十時過、なほ子は耕一の仕事場にしている離れに行った。襯衣一枚になって、亢奮が顔に・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
出典:青空文庫