・・・そして、女の身を投げて死んだという井戸のそばへいって、深く、深く、わびられますと、その井戸のそばには、濃紫のふじの花が、いまを盛りに咲き乱れていたのであります。――一九二一・一二作――・・・ 小川未明 「お姫さまと乞食の女」
・・・ なるほど、手で草をわけてみると、濃紫の小さい美しい実が、重なり合うようにしてなっていました。「僕の妹が、ほしいというので、僕、さがしにきたのだ。」と、知らない子は、いいました。「君は、りゅうのひげの実を取りにきたのかい。僕は、・・・ 小川未明 「少年と秋の日」
・・・いったいどういうわけでそんな事をするのか自分でもわからないで変な気持ちがした。濃紫の衣装を着た女が自分の横に腰掛けているらしかった。何か不安な予感のようなものがそこいらじゅうに動いているようであった。 いつのまにかどこかの離れ島に渡って・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
出典:青空文庫