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・・・草津の姥が餅も昔のなじみなれば求めんと思ううち汽車出でたれば果さず。瀬田の長橋渡る人稀に、蘆荻いたずらに風に戦ぐを見る。江心白帆の一つ二つ。浅き汀に簾様のもの立て廻せるは漁りの業なるべし。百足山昔に変らず、田原藤太の名と共にいつまでも稚き耳・・・
寺田寅彦
「東上記」
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・・・かなしき鵜飼かな馬をさへながむる雪のあした哉住つかぬ旅の心や置炬燵うき我をさびしがらせよかんこ鳥 雄大、優婉な趣は、辛崎の松は花より朧にて五月雨にかくれぬものや瀬田の橋暑き日を海にいれたり最上川・・・
宮本百合子
「芭蕉について」