・・・学士は手にしたコップをすこし傾げて見せた。炭素がその玻璃板の間から流れると、蝋燭の火は水を注ぎ掛けられたように消えた。 高瀬は戸口に立って眺めていた。 無邪気な学生等は学士の机の周囲に集って、口を開くやら眼を円くするやらした。学士が・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ 九 炭 木材を蒸焼にすると大抵の有機物は分解して一部は瓦斯になって逃げ出し、残ったのは純粋な炭素と灰分とが主なものである、これがすなわち木炭である。質の粗密によってあるいは燃え切りやす・・・ 寺田寅彦 「歳時記新註」
・・・ 宇宙線が脳を通過する間に脳を組成するいろいろな複雑な炭素化合物の分子あるいは原子の若干のものに擾乱を与えてそれを電離しあるいは破壊するのは当然の事であるが、その電離または破壊が脳の精神機能の中枢としての作用になんらかの影響を及ぼすこと・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・尤も動物性食品には含水炭素が殆んどないからこれは当然植物から採らなければならない。然しながらもし蛋白質と脂肪とについて考えるならば何といっても植物性のものは消化が悪い。単に分析表を見て牛肉と落花生と営養価が同じだと云って牛肉の代りにそっくり・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫