・・・然るにこの病気はいずれも食戒が厳しく、間食は絶対に禁じられたが、今ならカルケットやウェーファーに比すべき軽焼だけが無害として許された。殊に軽焼という名が病を軽く済ますという縁喜から喜ばれて、何時からとなく疱瘡痲疹の病人の間食や見舞物は軽焼に・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・故に無害である。否、時には健康上有益である。しかし、諸君を真似て飲む中学生、又は労働者たちは自らを制することが出来ぬため、酒に溺れ、その為に身を亡す危険が多い。だから諸君は、彼等のために! 彼等のために酒を飲むな、と。彼等のため、ばかりでは・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・こういう種類のレコードこそあらゆるレコードの中で最も無害で有益でそして最も深い内容をもったものではあるまいか。もしそういうものができたら、私はそれをあらゆる階級の人にすすめたい。為政家が一国の政治を考究する時、社会経済学者がその学説を組み立・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・少なくも子供たちに対する誘惑を無害な方面に転じる事になるだろうし、おとなに対しても三越というものの観念に一つの新しい道徳的な隈取りを与えはしまいか。生き物だから飼っておくのはめんどうだろうが。「三越に大概な物はあるが、日本刀とピストルが・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ども、夫の病に罹りたるとき妻が看病する其心配苦労は果して大ならざるか、妊娠十箇月の苦しみを経て出産の上、夏の日冬の夜、眠食の時をも得ずして子を育てたる其心労は果して大ならざるか、小児に寒暑の衣服を着せ無害の食物を与え、言葉を教え行儀を仕込み・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ およそ物の有害無害を知らんとするには、まずその性質を知ること緊要なり。その性質を知らんとするには、まずその物を見ること緊要なり。熱国の人民は氷を見たることなし。ゆえにその性質を知らず。これを知らざるがゆえに、その働の有害なるか無害なる・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・又食物も気を付けて無害なる滋養品を与うるは言うまでもなきことながら、食物一方に依頼して子供を育てんとするは是亦心得違なり。如何に食物を良くするも、其食物に相応する丈けの体動なくしては、食物こそ却て発育の害なれ。田舎の小民の子が粗食大食勝手次・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫